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◇ 桜庭一樹「赤朽葉家の伝説」

初桜庭一樹。実はなんかね、イメージが良くない作家だったのだ。何でかってのは覚えてない。
まあそもそもわたしはラノベには偏見がある。それかな、一番は。
あ、違う。わたしは男女を裏切るペンネームが基本嫌いなのだった。

で、先に結論を言えば、本作はけっこう面白かったのでした。
赤朽葉家に嫁に入った万葉から始まる女三代記。
赤朽葉家は奥深い?村の名家で製鉄業の大金持ち(製鉄業の時点で村じゃないですけどね)、
万葉はそこに勤める製鉄工が育てた拾われっこだったが、予知能力の持ち主。

その娘の毛毬は、若い頃は暴れ者で、鳥取県下、中国地方制覇をもくろむレディースの頭に育ち、
20歳過ぎ頃から唐突に売れっ子漫画家。
その娘の瞳子は、祖母や母の強烈さはなく、地味でその辺にいる普通の娘。
この人が語る体裁を取る。

第一部である万葉パートは、マジックリアリズム的横溝、みたいな感じ。
不気味な雰囲気が漂う大金持ちの旧家ってだけで横溝っぽい。
まあ横溝は2、3作しか読んでないし、言ってみたかっただけだが。

万葉と毛毬のパートは原始的な極彩色を感じるマジックリアリズム的。
わたしはこういうの、多分好きなんだよなあ。池上永一とか。
日本の当時の(戦後くらいの時代)を書いていて、その頃の時代のカラーとしては灰色な気がするけど、
書きぶりは極彩色ですね。人名がみんな変でね。

万葉が視る未来のイメージが鮮烈だった。だいたい予知するのは不幸。空飛ぶ片目男とか。
キャラクターもかなり強烈な人が多くてね……。
こういう極端なのを受け付けない人もいるだろうが。わりとわくわくして読んだ。退屈しなかった。

そんなには出てこないけど、万葉の姑であるタツが好きだったなあ。
タツは家付き娘で、何かの不思議なお告げに従って万葉を嫁に招いた人。
名家の話だったらありがちな、嫁と姑の確執なんてものはなく、
(そもそも嫁と姑の関わりも大雑把にしか書かれてないけど)
破水した時にいつものように「おかあさーん」と叫ぶと、
タツが広大の屋敷のどこからともなく地響きをたてて助けに駆けつけてくれるのとかすごく好き。

奇妙な話の中でだいぶ普通の人である豊寿さんも好きでしたね。
かっこいい人から落魄した人になるんだけど、やはり切ない。

あ、しかしこの作品をミステリとして読んではいけません。
最初から奇妙な味わいがあり、むしろだんだんとそれが減じていくのがちょっとした不満。
最後まで奇妙な味わいで行った方が良かった。

3代目になって普通の話になって、このパートの最後だけほんのちょっとしたミステリ。
とはいえ、完全にオマケなので、全然そういう部分に期待をしない方がいい。
あくまで極彩色に描かれたある家系の話と、現実の日本で起こった歴史上の出来事
(もう王貞治なんかも歴史でしょう)の並列を楽しむ話。
まあ後者は奥行きを与えるための付け加えの部分だけども。極彩色を楽しむ小説。
大河小説という感想も見るが、大河ってほど大河ではない。

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ああ。もしかして「精霊の家」?まあ女三世代の話ってだけだが。
でもほら、祖母は不思議な能力の持ち主だし。孫はある意味、事件の世代だし。



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