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◇ イザベル・アジェンデ「精霊たちの家」

単行本600ページの厚い本で、下手すると1ページに1個くらいしか読点がないのだが、
そのわりには読みやすい。
面白いからね。面白い“物語”だからね。
三世代にわたる家族史で、それなりに登場人物が多いのだが、ほぼ時系列に沿って物語られ、
一本の線としてお話を辿れる。こういう素直な書き方はアリガタイ。物語が好きだ。

そして内容は、マジック・リアリズムのど真ん中といえばど真ん中なのだが、
じゃあマジックの部分が重きをなしているかというと実はそうでもないので、
タイトルの「精霊」に拒否を感じる人でも多分読んで大丈夫だろう。
精霊がいることは頻繁に言及されるが、いるだけだから。
本筋は(そして脇筋はない。シンプル。)裕福だけれども幸福ではない家族の三世代の話。

幸福ではない話のわりに、そんなに読んでて辛くない。それはおそらく家族に起こるゴタゴタが、
コミカル感のある極彩色の話になっているからだろう。
これは……池上永一とか思い出すなあ。しばらく読んでないけどお元気ですか。
またリストの順番が回ってきたら読むからね。

第一世代にあたるエステーバンというおじいちゃん……というか、ジジイがヒドくてねえ。
コミカルなヒースクリフというか。いや、違うか。うーん、多少はあるか。
とにかく暴君。近隣の農民の娘たちを強姦するわ、激高すると物を叩き壊すわ、
小作人たちを人間とは思っておらず、気に入らないと喚きたてる。
しかし有能な農場主でもある。のちには議員になる。
この人は最初から最後までいて、しかも時々一人称の視点人物になるんだから、
主役と言ったらこの人なんだろう。

エステーバンの奥さんがクラーラ。エステーバンはこの人が好きで好きで……
でもあまりその思いが通じないんだよね。
ここら辺の書き方も変わっているなと思うんだけど、クラーラはエステーバンを、

大嫌いなわけではない。
しかし親しみは持ってない。
だが避けてはいるけど、全拒絶というわけではない。

精霊たちと話せて予知能力があるクラーラと暴君のエステーバンでは、
生きる世界が違うだろうと思うのに。うっすら繋がっているんだよねえ。
読後しばらく経ってからの印象だと、この夫婦はそれなりに幸せだったのかとすら思う。

まあ家族の仲は悪いんだけどね、全体的に。

一応この話は女性三世代を軸にした話と言われていて、クラーラの娘がブランカ。
ブランカも色々ある人なんだけど、クラーラが晩年まで輝いているのに対して、
ブランカが若いころはともかく、後半生は精彩がない。
それは娘(孫娘)のアルバを活躍させる作劇上の制約ではあるかもしれないけど、
あまりにも急激に輝きを失うので違和感がある。

あとは最後の最後が革命の話で、だいぶグロい……。
幸福じゃない話を延々600ページ(苦痛なく)読めたのは、コミカルな味が勝っていたからだが、
そこだけは救いがない暗さ。辛かった。

だいぶ自伝的な要素を持つ小説らしい。
あんまり小説家の職業的な技巧は感じない。自分の中にあるものをたどたどしく語っている感じ。
他の小説もやっぱりたどたどしいのかな。他の読んでみようと思う。
読みやすい文章で、訳者はお手柄です。

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そういえば池澤夏樹個人編集の一なのであった。
池澤ったら、日本文学全集も編んじゃって……。どんだけ欲張りなんだ。

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