序盤は清顕の肥大した自尊心に激しく同族嫌悪を覚え、
中盤は肥大した自尊心のゆえに陥る唾棄すべき不倫に憤り。
(これを悲恋と読む人の気が知れん。そして相変わらず新潮文庫の裏表紙のあらすじはひどい。)
そして後半にさしかかった時に訪れる必然のカタストロフ――
これはまあ当然の話だ。作劇的にそうならない方がおかしい。
しかし、そのカタストロフで明らかになる伯爵の過去、人となり……
わたしはこれが衝撃的だった。読んだ後呆然。
三島由紀夫がここに一番力を入れて書いたわけではないと思うんだけどね。
わたしとしては全く虚を突かれた。伯爵が……伯爵がねえ……そうなのか……
破滅のスイッチを押したのは。
その後に少々詳しく描かれる、伯爵の情けなさ加減。立ち向かう勇気のない人間。
目をつぶっていれば不幸も脅威も無きものと出来ると信じる、歯がゆい人間性が……
あまりにもよくわかりすぎて。
三島由紀夫。といえば割腹自殺。
そう聞いただけで辟易するし、全然詳しいことを知りたいとは思わないわけで、
わたしは三島由紀夫についてほとんど全く知らないのだけれども。
おそらく全ての根っこは肥大した自尊心にあるんだろうね。
美意識も。怜悧さも。繊細さも。全ては肥大した自尊心が飲み込んでいく。
そういう意味では清顕は三島の似姿なんだろうと想像する。
繊弱であると同時に傲岸。雅さ、軟弱さの罪。頑丈なものは美しくないけれども正しい。
しかし美しくないものとして世にあって、それに何の意味があるかという志向。
うーん、ただし結末は。むしろ聡子と清顕は逆だったんじゃないかと……
ここは三島の、主人公の甘やかしだと思った。三島は聡子をキャラクターとして愛してないよね。
どこまでも観念的な、美女のアイコン。
まあ被虐的に愉しみましたよ。この小説は傑作だと思う。
終盤の150ページは本を置けずに、地下鉄のベンチで一気読み。すっかり体が冷えました。
次の「奔馬」も期待。
でもやっぱり三島由紀夫は好きになれる気がしないよ。
![]() 春の雪改版 豊饒の海第1巻 (新潮文庫) [ 三島由紀夫 ]
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