いや、このタイトルで何を書くつもりなの?恩田陸。
これってえとあれですよ。聖フランチェスコの映画ですよ。
これでいつもの、全く名は体を表さない話を展開したらまずくないか……
そしたら、タイトルは直球も直球、ド直球でした。
この話は高校時代に仲良しだった男女3人の大学生活を、漫然と小説仕立てにした
恩田陸にしては珍しい“普通の”小説なんだけれど、「ブラザーサン シスタームーン」は
この3人が当時見に行った映画ってことで出てくる。
まあ若干大きなキーワードなので許容範囲ではあるが、タイトルに持ってくるほど
組み込まれている感じは全くしない。
この人、タイトルを単にキャッチィってことだけでつけてるでしょ?
恩田陸にしては驚くほどひねりのない話でした。わたしはけっこう面白かったけど。
3章をそれぞれ視点人物を変えて書いていっており、時々他の2人の点景は描写されるが、
基本的には同じものを別な角度から見たというよりは、各々が語る自分の話。
要は“あの頃、自分はこんな風にして暮らしていた”。
こういうことを書きたくなるというのは、年とったってことか、恩田陸。
まあ書いたの2009年だっていうから、たしかに若い頃がなつかしくなってくる齢だろう。
この3人は恩田陸の分身だと思う。ごくごく表層的な意味で分身。
自分の中の創作という部分をじっくり温めていたのも、
バンドに没頭してたのも、
映画にはまっていたのも、
みんな恩田陸だろう。
それぞれのパート、わたしは面白かったけれども、それは自分が恩田陸スタイルの
青春時代に近いものを送っていたからだろうな。
ぴったり重なるわけではないが、アウトラインは大雑把に似てる。
なので、読んでいて自分の大学時代を思い出す。そのあたりは「夜のピクニック」に似てる。
いやー、久々に「夜のピクニック」の系譜を継ぐ、普通のノスタルジーの話かね?
……ええっ!?「夜のピクニック」、2004年!?
あらー。わたしは今の今まで、デビュー数作目の作品だと思っていたよ。
そうなると、わたしの恩田陸観はけっこう変わるのだが。どう変わるかは、
まあすぐには説明できないけれども。うーん。
この人は取材して、ある程度深く書いてくれるからいいね。
凡百の人が大学時代の話なんかを書くと、新知識が1つも盛り込まれておらず
(小説を、知識を求めて読まなくてもいいけど、300ページの間に一つくらい「へー」と
思うことがあってもいいでしょう。いや、むしろ無ければ不思議でしょう)
読んでて退屈でしょうがなくなったりもするもんだ。
バンドの話が一番面白かったな。多分この人はバンドの話で1本書けって言ったら、
こってり1本書くんだろうけど。
たまには、こういう普通の小説を書いてくれてもいいですよ。
なぜこの道具立てで突然ホラー、とかいうのばっかりじゃなくて。
まあそれもちょっとは好きですけどね。
![]() ブラザー・サンシスター・ムーン (河出文庫) [ 恩田陸 ]
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