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◇ 梨木香歩「僕は、そして僕たちはどう生きるか」

ちょっと説教くさい?タイトルで、あんまりなあ、と思っていた。
最初はエッセイだと思った。そしたら案に相違して小説なんだと。
タイトルからすれば妥当ながら、中学生男子の一人称。しかし梨木香歩としては意外。
明治期の青年か、そうでなければ比較的若い女の子の話が多かったから。

前半はいつもの感じ。ノスタルジックな話の展開。
しかし後半、突然ガタンと話が変わる。前半の最後で、ユージンの家の敷地内に無断で住み着いた女の子の存在がわかり、
(ユージンの家は昔の農家らしく、林やら何やらがあって敷地が相当に広い設定)
なぜその女の子はそんなことをしているかという事情が、前半と後半の間に活字まで変えて語られているのだ。

簡単に言えば、現代社会的な罠に落ちてレイプされ、AVビデオで撮影された女の子。
……面倒なので細かく書くのは省くが、そういうことがあって閉塞空間では(精神的に)生活できなくなった女の子が
住み着いたという設定。20ページ弱でその事情を説明し、それからまた前半の続きに戻っていく。
これはたしか1冊、半日で始まって終わる話なので。

この“事情”部分は、なんだかえらくいつもの梨木香歩と違うので、わたしは実話だと捉えた。
作った話だとしたらこの部分は、なんというか、納得が出来ない。
それはおかしい、と思うことに対する反論。巧妙な罠への反論。
だったら、その巧妙な罠を自ら創作した上で反論するというのはフィクションの作りとしてはないだろうと思う。
ゆえに実話に対する作者の抗議としてわたしは読んだ。

梨木香歩にしてはダイレクト。毛色の変わった話。

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この本にはいろんな問題提起があって、次々と現れる問題には色々思うところもあったんだけど、
それを書こうとしてもまとまらなかった。書こうとすると多分原稿用紙20枚くらいになりそうだ。
わたしの考えることはそこまでするほどの内容ではない。残念ながら。
感じること、考えることがどんどん減っていく。年かね。

作者は問題提起をしているけれども、結論は出していないので少年少女の皆さんはこの本に答えを求めてはいかん。
自分で考えること、そしてどういうことを考えなければならないか、という例示のための小説。
人生で考えなければいけないことは、この本に書かれているよりも数多い。多分。
ただ、長く生きてると、考えることに飽きるんですよ。

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