PR

◇ 飯嶋和一「黄金旅風」

前に「始祖鳥記」を読んだ。そんなに肌が合わなかった記憶がある。
今回のこれは、面白かったんだけど、……うーん、なんかバランスが悪いよなあ。

細部を丁寧に書く筆力は素晴らしい。とても素晴らしい。
登場人物もいい。爽やか。いい人。
主人公の末次平左衛門は実在の人物らしいが、今まで聞いたこともなかった人なので、
それを掘り起こして読ませてくれたことには大変感謝する。

ただ、全体にストーリーがね。有機的に繋がってない感がひしひしとする。

この人は、多分部分部分を書いて、それからつなぎ合わせていくようなパッチワーク書法な気がするが、
全体の起承転結が弱いよね。
例えていえばアラベスク文様みたいな感じで、細かい模様に精緻を尽くすけど、
全体として何か一つの大きなデザインというわけではない。
こういうのもありだと思うが、わたしはもっと大きな起承転結もある方がすっきりするなあ。

ただまあわたしの好きな辻邦生も、見てきたように書くというのは圧倒的だったけれども、
全体的に竜頭蛇尾な感じの作品も多かったしね。
見事に起承転結をまとめると、それはそれでエンタメ職人すぎて面白みが減ったりするからね。
東野圭吾とかね。方法論を駆使して書いてる気がするからね。
どうすればいいっちゅうねん。

飯嶋和一は、今まで取り上げられてこなかったような人をがっつり読ませてくれるという意味でありがたい。
それだけに……考証は大丈夫ですよね?信じていいの?多分末次平左衛門なんて、今後の人生で
関連図書を読むことがあるとは思えないので、最初で最後の関連本になるわけですよ。
そこでいい加減(とまでは言わなくともファンタジー。)なものを書かれると、こちらとしては困る。
まあそこは作者と読者の立場の違いなので仕方ないけれども。

そういう意味では高橋克彦の「炎立つ」なんか実は罪深いんだけどね。
あれでは泰衡が大変かっこよく描かれているが、一応基本的には泰衡は暗愚というのが定番でしょう。
奥州藤原氏関連本を生涯あれ一作しか読まない人なんていくらでもいるでしょうからね。
そんなこと言ったらフィクションは書けませんが。

才介が途中であっさり死んでしまうのは何とかなりませんかね。
まるでダブルキャストの片方みたいに扱われているのに(死んでからも頻繁に回想されるとはいえ)、
話としての大きな盛り上がりもなく死んでしまって。バランスが悪いなあと思う所以。
もうちっと全体の中で才介の死というのを大きく位置付けてほしい。

「ワンピース」のエースが死ぬところでも似たようなことを思ったなあ。
(わたしが好きな)重要人物であるエースを殺すなら、もう少し話の仕掛けがあってもいいかなあと。
こういう死に方だと、流れ的にもしかして復活もありかな?と思っていたのに復活しやしない。
そういうミスリードを生む流れはバランスが悪いと感じる。

全体的にこってり風味なので、飽きずに全部読めるかどうかはあまりが自信がないが、今のところはツブす予定。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

黄金旅風 [ 飯嶋和一 ]
価格:812円(税込、送料無料) (2017/1/15時点)

コメント