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◇ 中村好文×神 幸紀「パン屋の手紙」

建築家中村好文と、中村好文に店舗設計を依頼したパン屋さんの往復書簡。
宝くじにあたったら中村好文に家を建ててもらおうとしているわたしには参考になりそうな本。
……と思ったが、実際に読んでみるとなんだかはるかに文学寄りで、
家を注文する時の参考にはあまりなりそうもない。

中村好文はあったかい文章を書く。だいぶキャラを作っているのではないかと思うくらいにおっとりと柔らかく。
そして今回の注文主であるパン屋さんも文章が上手い。北海道の羊蹄山の麓からわざわざ中村好文に
注文依頼をするくらいだから、中村好文が大好き。類は友を呼ぶというか、二人の文章を見ていて、
この二人はそれは気が合いそうだと思った。

本としては面白かったです。相変わらず写真もきれいだしね。
上棟式には餅ではなくパンをまいたそうだ。
わたしが子供の頃は上棟式は新築の家では必ずやって、近所に五色の幟が立つと逃すまいと
日にちなども訊いたものだが、近年はやってるところ見たことないね。
まあ今となってはたとえ近所でやっていても出て行かないが。

レミングハウスは東京にあり、わざわざ事務所員が何人も北海道まで作業をするために複数回海を渡る……。
素直に地元の工務店にお願いした方が安上がりな気が。この交通費とか誰が出してるんだろうなー、と気になった。
ちなみに、設計料の半額は“現物払い”という取り決めにしたらしい。
月に2回、レミングハウスの昼食用にパン屋さんで焼いたパンが宅急便で届くんだそうだ。
それはパン屋さんが廃業するか、レミングハウスがつぶれるまで続くんだとか。
微笑ましい話だが、なかなか手間のかかることである。

レミングハウスとは中村好文の建築事務所の名前。

あと面白かったのは、パン屋さんの息子さんが(当時小学校低学年くらい?)
「ツリーハウスが欲しい」と言い出して、中村好文史上最年少のクライアントになったこと。
ほんとに樹上の家でね。こんなのがあったらそりゃ子どもは嬉しいだろう。

建築という側面で面白かったのは、第1案から第7案(最終案)までの簡易図面。
簡単な解説付きなので、中村好文の思考の変遷がよくわかる。
しかし、この建物のキモというべき中央通路が第6案まで出てこないこと、
それも注文主の方の呟きによってようやく出てきた案ということで、個人的にはちょっとガッカリ。
建築家は神ではないんだけれども、わたしはどうも建築家に多くを求めてしまうようだ。

わたしが注文するとしたらもっと散文的に、脈絡なく、言いたい放題になるだろうな。
途中、「雰囲気の建築を求めるな」と、中村好文が注文主に小言を言う箇所があるんだけど、
それは酷だと思ったよ。素人が建築を雰囲気でしか見ないのはむしろ当たり前で、
それを四苦八苦しながら現実にするのが建築家、だと思う。
もっともこの注文主は、今までの自宅も自分で組み立て、中村好文の本も全部持っているほどの
建築好きということもあり、中村好文の方もそれを踏まえた上で言いたくなったことだとは思うけどね。

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