予想通り地味だったわけだが……。
でもまあまあ面白かった。ただ、目を喜ばす類のエキシビではなかった。
タヴォラ・ドーリアとその他の模作との比較、のようなことが半分を占め、
その他はこじつけたようなテーマに沿ってあちこちからツギハギで集めて来たものの展示。
……いかん、面白かったといいつつ、口ぶりは辛辣。
褒める所だけ褒めようか。
正直「タヴォラ・ドーリア」自体も絵として別に大したもんではね。
まあ専門家の目から見れば大したものかもしれないが、何しろ壁画の習作、しかも一部分、しかも未完成。
習作の未完成って言い方も変だが。
それ自体が特に美しいものではない。
数々ある模作を比較検討する試みはいいけど、こういうのはNHKあたりが映像でやった方が面白いだろうね。
わたしの理解力も足りないんだろうが、その比較自体の意味がよくわからなかった。
「ふーん、面白いね。……で?」っていう。専門家向けのテーマだったんじゃないかなあ。
この4つを比較すること自体の面白さなんだろうけど、わたしはこの4つを比較することで得られるものは
何なのか、という俗な興味の部分までを満たして欲しかった。
そういうのがないとつまんないですよ。
あ。やっぱり褒めてない。
まあ今回目を喜ばすものといったら、なんといっても「ニッコロ・マキャヴェリの肖像」ですね。
これはマキャヴェリの著作物には必ず載っている肖像で、もう目垢がつくほどお馴染み。
しかし目にしたのは初めてだと思う。
古馴染みに会ったようななつかしさ。
図版で見た時はいたずらっ気がにじみ出ていた。実際に見ると図版で見たよりは穏和で真面目な感じ。
しかし口元はやはり、軽口がいくらでも出て来そうな雰囲気。お調子者の気味はあったと思う。
左右の顔がだいぶ違うタイプの人で、顔の左側が内面を映し、右側が外面を映すという俗説に従うなら、
良くも悪くも躍動する情熱的な内面を表面的には理性で抑えていた人。
しかし顔以外のデッサンはひどかったですね。
体のバランスと、特に手がひどい。左手もアヤシイが右手がひどい。画家はもう少しがんばりましょう。
次に目を喜ばすものは、作者不詳の「聖アンナと聖母子」。ダ・ヴィンチ作品に基づく。
これは、これ自体カワイイ絵で、まあ構図やらなんやらはそのまま借りているんだけど、
一枚で見られる絵でした。けっこう腕のいい人。ダ・ヴィンチの人物の顔はカワイイとはまるで言えないが、
この絵は可愛くて良い。子羊の上半身がろくろっ首みたいになっていること以外は、なかなか。
聖マリアの体も若干微妙だったか……
まあ、キレイな絵という意味では会場で一番。
その隣にある、やはり作者不詳の「レダと白鳥」。これもダ・ヴィンチ作品に基づく。
こちらは北方ルネサンスの雰囲気を感じたな。良くも悪くも。筋肉的。
そういえばダ・ヴィンチはあれだけ体のデッサンを残しているのに、これ見よがしな筋肉って描いてないね。
あ、そう、へ~え、ダ・ヴィンチの本作は残ってないの。知らなかった。ダ・ヴィンチだと思っていたのがあったなあ。
模写は9枚ほど残っているらしい。これも出来がいい方だとは思うけど、白鳥の目がヨコシマすぎる。
ダ・ヴィンチに似ているかどうかという観点からは他の作品に一歩を譲ると思う。
レダが手に持つ植物の枝、足元の草花の細密描写が優れていた。特筆すべき。
あとは習作が良かった。ファクシミリ版って……初耳で、FAXで送られたのかと思った。
「スミレ」カワイイ。
「ひざまずいている人物のための衣襞の習作」絵として美しい。
「手と頭の習作」やはりダ・ヴィンチは手。
「集中式聖堂」ダ・ヴィンチは実際の建築はやってないよね?あ、ブロワ城の二重階段はあるか。
でも聖堂設計とかやってみたかったのかもしれないなあ。
まあ、あとはそれほど……
デッラルティッシモという人による肖像画が6枚あって、その中に
チェーザレ・ボルジアがあったのでびっくりしたんだけど、これは1568年前後の作品で、
ということは彼が死んでから60年後に想像で描かれた作品ということになる。
正直、全然アマイぜ、という出来の肖像画。
これは例えるに現代の歴女が「竜馬さま♪」とか言いつつ
描いた坂本竜馬のイラストなどに近いのではないかと思った。
ファンによるイラストを否定する気は全然ないが(むしろ微笑ましいが)、
肖像画というなら、もう少し人物の内面まで迫ってくれないとなーと思った。
しかしなんで、そんな時期になんの需要があって描いたかね?
どういう経緯で描かれた6枚の肖像画なのか知りたい。
チェーザレとピエロ・ソデリーニとニッコロ・ピッチニーノ(アンギアーリで戦った傭兵隊長らしい)と
フィリッポ・マリア・ヴィスコンティ(ミラノ側の大将のたしか息子?)、ダ・ヴィンチとミケランジェロ。
大きさも揃っているから、何らかの意図があってシリーズとして描かれたもんだと思うんだが、
顔ぶれが不思議……。
フィレンツェの有名人というくくりならチェーザレとヴィスコンティは関係ないしね。
まあでも行って良かったです。久々にヨーロッパのニオイ。
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