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◇ 万城目学「偉大なる、しゅららぼん」

またまたまたいつもの万城目ワールド。

文庫で582ページというそれなりに厚みのある本なので基本的に外読みで。
わたしは小説は、外読みに出来ないほどのめり込んで読めるのを最上とするが、
でも先を読むのが楽しみな小説でしたよ。面白かった。

話の骨子は相変わらずの、日本のとある場所で起こっているワケノワカラン話。
……と、23文字でまとめてしまうのも何だが、この人の作品はわりと基本はそうですよね。
「鴨川ホルモー」もホルモーというワケノワカラン遊戯に強制的に興じさせられる学生の話。
「鹿男あをによし」も運び番とか使い番とかワケノワカラン因縁のある話。
「プリンセス・トヨトミ」は豊臣秀吉の血筋がらみのワケノワカラン裏独立国の話。
で、今回のこれは、とある旧家に連綿と伝えられるワケノワカラン能力の話。

まあよくここまでワケノワカラン話を考えますな、とあきれ半分の感心。
わたしはそれでも、彼の“生み出した”話にわずかに漂う恣意性の強さがちょっと気になるんだけど、
(今回の話でいえば、琵琶湖の水で違う種類の力が覚醒するのは納得出来ない。
種類が違うせいで術が解けないというほど独自性があるのなら、水も違うべきではないのか。)
まあとにかくこうやってマイルールを生み出す力はすごい。頭の中でチマチマと細部を考えているところが
ビジュアルとして小人さんで浮かんできて、そのコチャコチャぶりにこちらもあきれ半分の感心。

今回は淡十郎と清子姉弟のキャラが強かった。強烈。
それに対して、語り手と棗広美はあんまり明確に像を結ばなかった。比較の問題かもしれないけど。
一番印象に残ったのは、やっぱり馬に乗るシーンですかねえ。ああいうの読むのは楽しいねえ。
実際は、初心者がいきなり二人乗りで馬で疾走というのはまず不可能なので、
よく考えると無理があるシーンとしてちょっと気になるけど。

クライマックスは、ちょっと腰砕けかな……。それまでが(万城目学らしい)ぐにょぐにょしたストーリーを
ひっぱってきたのに、解決は一刀両断、ありがちといえばありがち……という方法だったから。
それまでがぐにょぐにょしてたから一刀両断な解決法になったのかもしれないが。

そして、エンディングはもっと手前で切った方が余韻があったんだと思う。
でも多分万城目学は人の良さ&サービス精神から、あそこまで書いて終わるんだよね。
それが嬉しくもあり、ちょっとなーと思う部分もあり。なんとも言えず。好意的な半笑い。

あ、そうそう、読み始めは「なんだろう、しゅららぼん?」というのは大層気になっていたのだが、
読み終わった今となっては……まあここは読んで下さい。

この人は、全部の話で時間に追われている。
そういうシチュエーションが好きなんだろうな。というか、そういう種類の話を書くタイプの人。
ふと、京都・奈良・大阪・滋賀でワケノワカラン話を書いてきたんだから、
……この後、兵庫・和歌山・三重・福井・岡山・鳥取……と、最終的に47都道府県を舞台にした
ワケノワカラン話を書く作家になって欲しいと思った。

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