浮世絵は天童市の広重美術館で見た記憶があるし、大英博物館で写楽を何枚か、
その他にもちょこちょこ見た記憶はあるが、まとまってこれだけの数を見たのは多分初めて。
けっこう良かったです。
浮世絵って、全体的にだいぶ小さいもんだったんですね。
わたしの家には、歌麿の美人画を鏡に仕立てたインテリアがだいぶ昔からあってですね……
その鏡の大きさのイメージで、長径80センチくらいな気がしていた。
だが今回並んでいた展示物は総じてだいぶ小さく――せいぜいB4とかA4ですかね。
縦長な判型が多いのでもっと小さいのも多いしね。
そしてまあ細かいんですわ!浮世絵ってこんなに細かかったんですねえ。
広重や写楽は、そこまで細かさで売るわけじゃないでしょ。歌麿の美人画とかはよく髪の毛一筋の彫りとか
テレビで言うけど、……それもそうだが、今回は鈴木春信のコマカさが。細かいというよりコマカイ。
竹すだれの直線とか、一体何をどうやったらあんな風に彫れるわけ!?と思う。
絵師よりむしろ彫師の腕。
今回初めて名前を聞いた磯田湖龍斎という人もコマカった。
この2人のあたりはひたすら美人画な感じ。ちょっと飽きた。
そうだねえ、今の感覚では美人かどうかかなりギモンだし、
こんなに似たようなのばっかり並ぶと(何しろみんな同じに見えるし)食傷するけれども、
やっぱり歌麿、北斎、広重、写楽が出てくるにはこういう山ほどの美人画があってこそなんだろう。
数が新しい何かを生み出すということはあるんだと思うよ。
ちょっと違うけど、アングルとかの新古典派の硬直が印象派を生んだようにさ。
まあでも美人画のオンパレードも、よく言われる「浮世絵は当時のファンションブックみたいなもの」というのを
実感させてくれて良かった。ほんと実感した。
美人画の一番の見どころは美人じゃなくて多分着物の柄だな。どの作者もそれはそれは着物柄に凝っている。
美人を描くというより、描いているのは着物だ。それがまた売れたんだろう。
だからこそあの小ささで良かったんだろう。
額縁に入れて飾る絵じゃないんだよね。本来はね。
こういうのが並ぶ前半を少し一所懸命に見すぎたかな。こっちをもう少しあっさり見て、
後半の最盛期のザ・浮世絵をもっと気合い入れて見れば良かったかも。
数としての割合は、やはり前期浮世絵の方が多かったから仕方ないけれども。
歌麿、写楽が「黄金期」というコーナー名、広重、北斎が「爛熟期」というコーナー名のところに
置かれているのは、そういうもんなんですかい、と思った。
広重は基本けっこう好きだが(構図の地味な奇抜さが)、今回はこれというほどのものはなかった。
北斎の「赤富士」……正式には「冨嶽三十六景 凱風快晴」もあった。刷りの色がベストではないかな。
保存の問題かな。もっと鮮やかなのがありそうだ。
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印象に残ったもの。
一番は歌麿の「高名三美人」。(「寛政三美人」の方が通りやすいかね)
歌麿といえば時々出てくる作品。今まで目にとめたことはなかったが、今回実物を見て、
他と比べてやはり一段上と感じた。他の絵が主に着物の柄を描いているのに対して、女性を描いてる感じ。
完成度が違う。
しかしやっぱり三人の顔は似てると言えば似ていて……その気になれば区別がつかないまでではないけど、
日本の絵はどうしてこんなにも写実に向かわなかったのか、というのが不思議。
肖像画が全くないわけではないけど。でも女性の肖像画は少ないよね。
その隣にあった同じく歌麿の「山姥と金太郎」も印象に残った。
そもそも画題で印象に残った。山姥と金太郎って親子なんですか。
髪振り乱して、ちょっとセクシーな山姥。
写楽「三代目市川高麗蔵の志賀大七」
志賀大七の役柄がわかってみた方が面白いんだろうな、こういう絵は。
しかし多分、いきなりこんな絵を見せられた本人は「なにやってくれはりますのん、兄やん!」(となぜか関西弁)
思っただろうなあ。顔長すぎますよね。
写楽は男性の方が見てて楽しい。女形に関しては、むしろ不自然さを強調しちゃうから……
歌舞伎堂艶鏡「市川男女蔵」は写楽の作品と雰囲気がかなり似てますよね。
これはいずれにしろモデルの男女蔵が何となくかっこいいので好きな絵だ。
面白かったのは歌川国政が書いた「市川蝦蔵の暫」。
顔の輪郭線がないという描き方はかなり面白かった。あれですよね。
舞台化粧を落とす時の、贔屓筋への顔ぬぐい手ぬぐい。
とりわけて言及しておきたいのは、斎藤報恩館旧蔵名品が里帰りしたこと。
まあそこまで肩入れするほどお世話にもなっていないが、今から思えば貴重な団体だったんだなあ。
詳細はこちら。
小さい頃、科学館や天文台にはよく連れて行かれた記憶があるが、
斎藤報恩館は2,3回。ま、他のミュージアムよりだいぶ閉鎖的な雰囲気だったしね。
でもここで買ってもらったさざれ石の詰め合わせはけっこう好きだったんだよ。
歌川国貞「北廓月の夜桜」
吉原の大門をガクブチとして、中央に配された桜の木の、月光に照らされた部分とその反対側の
微妙な色使いが美しい作品。こういう微妙さはほんとに日本独特のものだという気がする。
まあ外国のことはよくわからないけれども。
歌川広重「甲陽猿橋之図」
これはたまに見る作品かも。こういう広重の地味に奇抜な構図が好きだ。
思いきり橋の高さを表現して、しかも月を真正面に持ってくるんだよ!やってくれるぜ。
これは刷りの色も鮮やかだった。
歌川広重「藤に四十雀」
小品。浮世絵じゃないのかな。余白がたっぷりある絵柄のあっさり具合は花札みたいな感じと言えばいいかね。
もっと大きければ掛け軸になる日本画っぽいけどね。
藤の控えめさ、四十雀の色使いに品があった。今回の一枚といえばこれか「寛政三美人」かどちらか。
面白かったです。
浮世絵、特に好きというわけではないがたまにこんな風に見ることが出来るのはありがたい。
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