ふつーの、ごくふつーのコメディだと思って見に行ったところ、けっこうシリアスでアーティスティックな
映画だった。絵柄きれい。笑いどころも多数。なかなかに見ごたえがある映画だと思った。
正直、話が分からない部分もあったんだけどさ。
演出で、早口で長台詞を喋る部分が多々あり、それも普段耳慣れない単語をずいぶん使っていたので
聞き取れなくても仕方ない。その台詞の中で唯一聞き取れたのが「路考茶」で、
――現代日本で「ロコウチャ」なんていっても1割もわからないと思いますよ。
まあそういう長台詞はあまり筋に関係なさそうなので、聞き取れなかったらそれはそれで構わない気がする。
が、威勢よくぺらぺらっと喋る様がかっこ良かったので、出来れば何を喋ったか知りたいね。
冒頭シーンの大泉洋の御政道批判もほとんど聞き取れなかったので、
全部この調子でやられたらついてけないなあ、と心配したのだが、そこまでではなかった。
ちなみにその台詞は、
やなぎやなぎでよをおもしろや、
うけてくらすがいのちのくすり、
うめにしたがい、さくらになびく、
そのひそのひのかぜしだい、
うそもまこともぎりもなし。
これをゆっくり言うのならまだしも、相当な早口だからね。
大泉洋が主演かと思いきや、実は主演は戸田恵梨香と満島ひかりだった。
わたしは戸田恵梨香にはあまりいいイメージがなくてねえ。多分見たのは3回目――
2008年のテレビドラマ「雪之丞変化」で高慢なお嬢さん役、
2012年のテレビドラマ「鍵のかかった部屋」の弁護士?だったっけ?
そして今回のこの映画なのだが、とにかく「雪之丞変化」がヒドかった。
作品としてもヒドく、役柄もなんかもう納得出来ないし、可愛くないしで散々。
これが初戸田恵梨香で、その後は4年後なんだから相当損な役柄だったと思う……。
弁護士役の時にはだいぶ本人が痩せていて、前の印象と比べると地味になってたんだよね。
もうちょっと華のある役者を持って来た方がいいんじゃないかと思っていた。
なのでドラマ自体は好きだったが、やっぱりトダエリカ本人の評価は上がらず。
そうしたら!!今回の芝居は!!大変いいじゃないですか!!
いい芝居でしたよ。じっと見てしまう表情だった。
本人の地味なところがとても活きる役柄だった。素朴で純粋で、ほんのり香る可愛らしさ。
最初から可愛かったら話も嘘っぽくなるし、このインパクトはなかっただろうが、
全然潤いのないところからどんどん可愛くなって行くのが良かった。
いつの間にかいい役者になっていたんですねえ。印象がガラッと変わった。重畳。
満島ひかりなる人は、実はわたしは名前も聞いたことがあるかないかという人。
なので、素顔はまだわからない。あの鉄漿と眉なしの顔しか。
他の人がそこまで作ってないなかで、満島ひかりだけ(メイク的に。まあ演技的にもか)
どっぷり作りこみをしていたので、どうかなあこれ、と最初は危ぶんでいたけれど、泣かせましたね。
大審問?大問診?の声を張り上げるシーンなんか、……難しいと思うがとても説得力があった。
役者も監督もお手柄。
大泉洋はそういう女優さんたちの邪魔にならずに、上手に受けに回って。
彼女たちが出てない場面では他の実力派俳優たちと存分にコミカル。
前に番宣でキムラ緑子と布団部屋のシーンを喋ってたんだけど、
「ここはどこで、俺は誰で、これは……何?」
「ここは柏屋の布団部屋であんたは中村信次郎、額に貼ってあるのはタデの葉っぱだよ」(台詞はうろ覚え)
のところは映画でも面白かった。いいねえ、ぽんぽんぽーんっていうリズム。
樹木希林は男名を襲名するのに全く無理を感じさせない人物造型。
内田理名の男顔が今回活きたね。涙をためてこれまでの人生を語るところは涙なしには見られなかった。
だが、田の中を討ち果たすのは内田理名の方が良かったんじゃないかね。
じょごが(じょご、という名前が不思議だが)鉄練りに秀で、薬草の知識もあり、武道もいけるとなったら
スーパーウーマンになりすぎてしまうやないか。
法秀尼もいい味出してました。美しく清らかでしかし無茶ぶりな人。ユーモラスでもあった。
想像妊娠をするおゆきという人――神野三鈴という役者さんだそうですが、実年齢49歳だそうですよ。
なんだか可愛かった。幼気な感じがした。それでさらにユーモラスなんだからいい仕事。
全然カワイくないけど、武田真治もはまってましたね。最後は立ち直ってたしね。
復縁についてもっと悩むかと思ったけど、わりと簡単でしたね。
堤真一の使い方が上手かった。上品だった。
昨今の日本映画で、若干食傷気味なほど引っ張りだこな役者なだけに、普通の役柄だったら、
別に堤真一じゃなくてもいいよなと言いたいところ、この映画では堤真一の色気が活かされていた。
最後の托鉢僧の撮り方なんてニクいさねえええ。
いや、満足な映画を見た。おすすめ。長い映画だが飽きない。
パンフレットに野村萬斎さんが原稿を書いている。まだ読んでないが楽しみ。
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