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◆ カメイ美術館。

数十年も前から、一度は行こうと思っていたところだが……。今回ようやく行って来た。

規模はだいたい想像通りで、雰囲気は新しくて明るくて、予想よりも良かった。
観覧者なんて一人もいないのではないかと予想していったが(失礼)、3、4人は見かけた。
売店があるとは思ってなかったのに売店もあった。ガラスのアクセサリーに少し心が動いたな。

この美術館は、絵画、蝶、こけしの3ジャンルによって成り立っている。
絵画は、手持ちのコレクションを展示したり、主に地元の画家の特別展を企画したりしているようだ。
今回は石巻の建物をメインに描いた浅井元義なる人のスケッチ展。
小品ながら味があった。

こけしは……まあ、わたしは興味ないジャンルなのでね。
見てワクワクするものでもなかったが、別して、一緒に展示されてた「こけし時代」という雑誌の存在に驚いた。

こけし時代。沼田元気責任編集。

正直誰だか知らない。前衛の人なんだろうね。
なんかアヤシイ雑誌ですよ。まず装丁的に40年前くらいの出版だろうと見えるのだが……
なに!?2011年発行?
見たのがバックナンバーの何号で、正確な発行年はいつだったか忘れたけれども、けっこう最近。超最近。
ぱらぱらと中をめくると、テイストは昭和中期のレトロ感満載。
不思議なオマケがついてたり、何よりも表紙デザインが微妙至極で、強い存在感。

おそらくは同じ人の作品であろう、コラージュ?のポスター?もあり、このテイストが妙に魅力的。

だがここまでコッテリしているのに、トンガった方向では微妙にナイんだよね。
商業路線には全く近づいてない感アリアリなのが、それはそれですごいと……
世の中にはわたしの知らないオモシロ系が相当あるんだろうなあ、と思ったことでした。

……しかし「こけし時代」のバックナンバーを平積みになんかしていて大丈夫か、カメイ美術館?
まあスペースには苦労していない感じだし、むしろちょうどいい場所ふさぎになるのかもしれないが、
たとえ普通のこけし好きが観覧に来たって、このテイストの雑誌を買う確率は低いと思うがなあ……。
でもいいのか。年に1冊でも売れれば。

ちなみに取扱い店としては「火星の庭」もあるそうだ。
がんばってるねえ、「火星の庭」。

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そしてわたしが今回何をじっくり見てきたかというとですね。

蝶ですよ!!

――蝶はきれいだ。光あふれる菜の花畑の上をモンシロチョウが舞っている風景なんてうっとりする。
大きなカラスアゲハが冥界へ行く使者のように宙を横切るのも好きだった。

が、標本はなあ。考えてみると不気味なもんだ。無数の死骸の展示。
それを言えば、法隆寺の玉虫厨子を有難がって拝観するのも、大英博物館でミイラを見ているのも
本質的にはそんなに変わらないのだが、標本はダイレクト感が相当に大きいでしょ。
正視するには少々悪趣味、というイメージがあった。

しかしそんなわたしが、ここの標本には見とれた。
最初は全然ちゃんと見るつもりもなく、ああ、標本ね、とさらっと通り過ぎようと思ったのだが。
目が留まる。足が止まる。見入る。

いやあ、蝶というのはきれいなもんですねえ。
自然の妙、というのは古今東西いろいろなものについて言われているが、
蝶の模様には思っていたよりずっと――変な言い方だが、人のぬくもりがある。
もっとパキッと、カッチリとした線だと思ってた。それがむしろ自然の造形だと。
そしたら、水彩絵の具で素人が引いたような線。その柔らかさが目に優しい。

超絶技巧の細工物を前にしているような満足感があった。
蝶にとりわけ興味があるわけではないから、全然くわしくない。種類ごとの違いなんてよくわからない。
ただ、色と線を愉しむ。どこを、というわけではないのに一箱一箱、ひとわたりの中身をゆっくり見て歩く。

――だが、何しろ蝶の標本は、ここにはとても数があるのだ……。
はっきり忘れたけど、うろ覚えの記憶でざっと計算してみると、上中下段3段の標本が40~50メートル
続くのではないか……。10メートルちょっとは楽しく見たが、それ以上になるとカラダが疲れた。
一旦、スケッチエリアに移動して気分を変えて、その後また戻って来たが、やっぱり全部は見られない。
まあいいんですけどね。採集地域が違うとはいえ、似たような蝶が何度も繰り返し出てくるという部分もあるし。

美しい色彩を視界いっぱいに置けたのが楽しかったんだと思う。
実はこういうことはなかなかない。南の海に行くとか、紅葉(あるいは新緑)の森の中を歩くとか、
こないだのジョー・プライスコレクションの「紅白梅図屏風」を展示の窓ガラスに額をつけるくらいにして、
出来る限り至近距離で見るとか。視界いっぱいが梅の花で埋め尽くされて幸せ。
あ、それを言えば現実の梅の花を至近距離で見るのも、藤も桜も、幸せだな。

――画家は美しい色彩を目にしているので長命、という俗説があるようだが、
それが事実ならば、この視界いっぱいの色彩に囲まれた幸福感、というのが作用しているように思う。
つまりそこから類推すると、同じ鮮やかな色彩で描く画家でも、大画面愛好の画家の方が長命。
梅原龍三郎しかり、東山魁夷しかり。二例ですけども。
まあ梅原龍三郎の色は、わたしにはむしろストレスになりそうな色ですが……。

視界いっぱいの色彩を求める時はここの蝶を見に行こう。
花は咲く時期が限られてますから。

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