地味だが、これは良さそうなニオイがする……と思って行ったところ、期待通りの良さで嬉しい。
近年は日本画づいてます。いい日本画が落ち着く。
「春日若宮御祭礼絵巻 上巻」
書かれている行列を構成する人々がみんな同じで、あまり衣装も派手ではないので、
風俗的な意味での面白みは今ひとつだが、その均一ぶりがおもちゃの兵隊っぽくてカワイイ。
よーく見ると個々人の顔は若干描き分けてるようにも見えるので、
真上から見られるタイプのガラスケースで見たかった。
狩野元信「松下渡唐天神図」
墨一色の掛け軸。
菅原道真がもし唐に行ったら、という想像図。タイトルを見なければテーマは中国の仙人だと思うだろう。
衣服は太い線で単純に描き、顔は細い線で大変繊細。一枚の絵で混淆しているのが不思議なくらい。
腕に抱えた一枝の梅も良かった。……良かったのだが、どんな梅だったかは今一つ覚えていない。
「松島塩釜図屏風」
けっこうでかい屏風。仙台市博物館蔵。初めて見た気がする。あんまり常設展見ないからね。
少し汚れてるので、お金が出来たらクリーニングをして欲しい気がする。
鳥瞰図なので、細部を見ると楽しい。五大堂とかもあった。
そのそばの万年山と書いてあるのは、位置的にも一番メインの画題であることから見ても、
瑞巌寺を描いてあるんだろうと思えたのだが、瑞巌寺の山号は万年山じゃないんですね?
あれはどこを描いてるんだろうなあ。
左隻の左上は、多分塩釜明神と書いてあり、そんなに大きくは描いていないが繊細な建物で良かった。
建築絵画の面白み。遠近法としては全く生硬だけども。
(州信印)「四季花鳥図屏風」
これが今回の白眉。一目見て綺麗。桃山時代というが保存状態が超良好。金箔が金色。
ああ、これはジョー・プライスさんなら欲しがるだろうな、と思った。
わたしの日本画関連はほとんどプライスコレクションに負っているので、どうしてもプライス基準になる。
しかもこんないいもの、個人蔵だそうです。いや、多分本当にいいものは個人がひっそりと
所有しているんだろうが、そういうものってなかなか一般大衆の目に触れないでしょ。
今回見られて眼福だ。手放しの賛辞。ありがとう。
遠くから見ても綺麗なんですけどね。近場で見ると素晴らしいですよ。
その繊細さといったら。秋草の髪の毛一筋の描線とか、ちっちゃい鳥っこをたくさん綺麗に描いてあるところとか、
もうほんとに綺麗。見つめて幸せ。
言うたら、線はわずかに弱いか……という気はする。でもこれだけ綺麗だと気になりませんよ。
作者は州信――というのは狩野永徳の諱だそうなんですが、描いたのが永徳かどうかはあまりはっきりしないようだ。
狩野永徳にここまで繊細に描くイメージはなかった。
しかし狩野派は工房作品として見るべきなんだろうと思うしねー。プロデューサーとして。
誰か繊細な絵が得意な一人が描いたとしてもそれはそれでいい。むしろ永徳と思わない方が味がある気がする。
東東洋「松に山鳥図襖」
仙台市博物館蔵。お久しぶりです、と言いたいが(過去に東東洋のエキシビがあった)、
当時この屏風は展示していただろうか……。全く覚えてない。
記事を読むと相当にのんびりした画風に感じたようだが、今回のこれは普通の画風。
まあ山鳥(=雉)なのだが、もう少しかっこよく描いてやれよ、と思った。
何かくすぶっているようにしか見えない。あれ?あれ雉ですよね?雌の。
山本素軒「花木渓流図屏風」
色々な(主に)木を種類多く描いている屏風なのだが、他も良かったけど、とにかく竹が良かった!!
竹のラインが超綺麗。これも見つめて幸せ。気分がすうっとする。緑色も綺麗。
これも個人蔵なんですよね。いいなあ、好きな時にこんな絵を眺められる身分は。
まあ自分が持ってればそれほど頻繁に取り出して見ない気がするけど。
渡辺始興「木蓮棕櫚図」
掛け軸。童画っぽい。たしか一対で、片方に棕櫚と桐、右側が白木蓮と椿だったと思うが、桐と椿が良かった。
棕櫚は画題として珍しいらしい。白木蓮はどことなく竹久夢二。多分描線の太さと墨の淡さが。
狩野章信「内裏雛図」
描表装という手法らしい。掛け軸で、本体の絵の外の表装部分も自分で描いたっていう。
雛の画題よりも、これはむしろ表装の方がメインな感じ。表装の部分には桜と山吹が描いてあり、
あんまり気づいてなかったんだけど、その下の地模様部分も手描きだったのかな?
そしたらその濃密さはすごいね。ぎっしり描いてあるわけだし。更紗模様っぽい。
これも若干プライスさんが欲しがるかもしれない。
狩野典信「仙台領分名所手鑑」
小さい色紙に名所の絵が描いてあって(今回の展示は武隈の松と姉歯の松)、
それと対になるように和歌をやはり色紙に書いてあるのだが、染筆は仙台第六代藩主伊達宗村だそうだ。
この字がいいのよ。書は全くの門外漢だが、やはり見て気持ちのいい字はある。
端正で柔らかくてこれ見よがしなところもない。性格が良さそうだなー、とか育ちが良さそうだなーとか想像出来る。
歌川広重「近江八景之内 唐崎夜雨」
浮世絵も十枚弱来ていた。そのうちの一枚の表現が変わっていて面白かった。
唐崎の松というでっかい松を描いたものだが、夜の雨、そこに松があり、大きな松の輪郭だけを黒でとって、
松の中心部は灰色で塗りつぶして、それがぬぼーっと夜に浮かんでいるという、
でっかい幽霊・海坊主みたいな雰囲気になっている。ちょっと言葉で説明するの難しいですが。
あ、これですね。
……わたしが見たのとは微妙にバージョンが違う気が?
輪郭の黒はもっと広い範囲に及んでいた気がするし、周囲の風景ももう少し描かれていた気がするのだが。
織田瑟々「糸桜図」
ボタニカルアート的な細密画。ピンクの色が可愛かった。
そして、本来の目玉であるべき、長谷川等伯の「松林図屏風」。
……これが、あんまりピンと来なかった。なんかちゃんと見られなかった。
以前テレビで見た時、目が釘づけになったくらいの絵なので、気負いすぎたのかもしれない。
人が少なくなるのを見計らって……と思ったら、出たり入ったりするはめになり。
あまりちゃんと向き合えなかった。気負いすぎも良くないですねえ。
唯一ある点は、歩きながら見るとなかなか面白い、という点。
ホログラムのように立体感があるというか。立体感だけではなく、動きがある気がする。自然の風景に近い。
それを狙ってあの濃淡というのは考えすぎだろうか。
10月21日から展示品の一部入れ替えがあり、「松林図屏風」の代わりに円山応挙が出るとのことだが、
うーん、入れ替えは見に行かないかなあ。
まあとにかく満足なエキシビでした。
そして今後、12月1日から3月末まで、改修工事のため仙台市博物館は完全閉館だそうです。
オープニングはたしか薬師寺展。そんなポスターを見た気がする。
……わたしは12月に奈良に行く予定なので、損したような感じがする(^_^;)。
損っていうのも変だけど、どうせだったら近々に行かないところのものが来てくれるとウレシイというか……
まあいいんですけども。
コメント