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◇ 岸本佐知子「なんらかの事情」

ラインを瀬踏みしてみて、最後の最後に当たりを引いたりするから、2、3冊ではわからん。
わからんが、そこは今後割り切るつもりでいる。
人生、そこそこの本に費やすよりは、面白い本を読みたいでしょ。
以前は作家一人当たり最低5冊をノルマにしていたものだが(そんなに面白くなくても5冊読んでみる)、
つまらない本を5冊読んでたら人生が終わってしまう気がしてきた。

作家はヘンな人で当たり前、しかし翻訳家はそこまでヘンな人だとは思っていなかった。
まあ土屋賢二とかいますけどね……。(と、うっかり書いたが土屋賢二は翻訳家ではなかった。哲学者ですね。)
でも翻訳家は受注産業(だよね?)につきものの事務能力を最初から装備してるもんだろうと思うし。

そしたらまあ、大変にヘンですよ、この人。

いくらわたしでもここまでは……というほどの変レベル。
思考のトンネルがあって、そこがぐにゃぐにゃ曲がっていて、暗黒迷路になっていそうなレベルの変さ。
……正直ここまでいくと妄想エッセイである。

でもいいのだ!面白ければ!

ついていけるかいけないかギリギリのところで面白い。
この人は他に「ねにもつタイプ」「気になる部分」というエッセイを出している。
夢オチ(あるいは夢オチに見せかけた妄想)も多く、こってり風味なのて3冊一気読みすると
それなりに中る気がするが、時々読んで吉。
3冊とも、みんな雰囲気は同じです。この人は他のスタイルでエッセイは書けない気がする。

芸ですねえ、これは。
いや、しかし芸というならばもう少し作為性が強くあるべきか。
この人はこのままで天然、狙ってやっているとは思えない。(というか、狙ってやってほしくない。)
天然芸というべきでしょうかね。うん。
エッセイの冊数は少ないが、量産すべき芸風ともいいかねるので、こんなペースがいいんだと思う。

どんなものを翻訳しているのかな、と調べると。
そうか「エドウィン・マルハウス」の訳者か……。
わたしはこれはてっきり、ミルハウザーの他の作品と同様に柴田元幸だと思っていたが。
しかし柴田元幸にしてみれば、「エドウィン・マルハウス」をかっさらわれたのは悔しいんじゃないかね。

しんねり系の翻訳家だろう。……多分翻訳家はみんなしんねり系だとは思うが。
ニコルソン・ベイカーの「中二階」は課題図書にあった気がするな。まあいずれ読む。

なんらかの事情
なんらかの事情

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