劇場で上映していた時に、行こうかなーどうしようかなーと迷い、ずるずると行かなかったのだが、
後日、評価がかなり高くなっていることに気付き、見にいっとけば良かったと思った映画。
年末あたりに録画していたのをようやく見た。
タイトル的には英国どまんなかの映画ですからねえ。イギリス好きのわたしだったら、
見に行っても不思議ではなかったんだけども。
でも実際に見て、わたしがいつも見ているタイプの英国映画とは少し違っているなあと思った。
わたしが見た英国映画は――「高慢と偏見」「ブーリン家の姉妹」「恋に落ちたシェイクスピア」
「エリザベス」などの、地の利を生かしたスタンダードな歴史物、
あるいは「ノッティングヒルの恋人」「ラブ・アクチュアリー」などのハートウォーミングな中堅作品。
これらは総じて滋味があり穏和な、という雰囲気のもの。
本作品は、たしかに滋味と表現し得るような話の温かさは十分にあるんだけど、
画面の色調が相当に寒色系だよね。今までイギリス映画でこんな寒色系は見たことがない気がする。
フランス映画ではたまに見るよ。こういう色みは。
そして、こういう話なら存分に地の利を活かすかと思われたのに、
――あ、地の利というのは、時代劇ロケが出来る場所が現代のイギリスに豊富に残っているという意味ね。
大聖堂やマナーハウス、宮殿には事欠かない。ちょっとした横丁なんかもその辺の街路を封鎖して
ちょちょっと撮れてしまう。
――思われたのに、意外にロケ代をけちっているということ。
ロケ代をけちっているというのはわたしの感触であって、実際はどうなのかわからんけれども、
英国ロイヤルファミリーの話なら、いつものようにそれらしい場所をばんばん出すのかと思っていた。
でもけっこう地味な場所で撮ってたっぽいですよね。
ヨーク公ならもう少しいいとこに住んでんじゃないだろうか、とか思いながら見てた。
まあロケをどこでやろうがそれがマイナスにならないくらい、――役者が良かった。
話としてはかなり地味な部類。吃音のジョージ6世がそれを克服するという話なら、
せめてもう少し派手……派手とまではいかないだろうけど、劇的にする要素はいくらでもあった。
それをやらずに、役者で見せる。
役者も、登場人物少なくて主要と言えるのは3人しかいないのに、2時間それで立派に見せますもの。
コリン・ファース。
わたしはも少し華を求めたいので、常に見に行く役者というほどではないが、達者ですよね。
「真珠の耳飾りの少女」のフェルメールは秀逸だった。
今回のジョージ6世も巧かったなあ。何も考えずに彼の心情にシンクロ出来る。
下手な役者だと雑念が湧いてしまって……まあツッコミを入れながら見るというのも
鑑賞方法の一つではありますが、創作物を味わうなら、出来ればその世界に同化したいですよ。
ヘレナ・ボナム=カーター。
この人の出演作はわたしにしては相当に見ている。この人も巧い。
本作では、冒頭付近は王族としての気品が足りないかなあ、と思いながら見ていたが、
実はロイヤルファミリー全員に王族としての気品はなかった。そういう風に描いた。
それにエリザベス妃って、たしか庶民的な言動で人気があった肝っ玉母さん系の人だったと思うんだよね。
お酒好きで。それっぽい気がする。
ジェフリー・ラッシュ。
ああ、ジェフリー・ラッシュか!とエンドクレジットを見てようやく。
わたし顔を覚えるの苦手なんでね……。特に彼は今までコスチューム物でしか見たことないので。
62歳にしては老けてますよね。だいぶ。
作中の役柄は、相当に面白いキャラクターだった。玉座に座っていた時は素でびっくりした。
ただ、役柄の見た目は全然幸福な家庭を持っているように見えない……。あまりにもペーソスが漂い過ぎて。
わたしとしてはキャラクターで若干不満なのはただ一人。
お兄さんにもう少し旨味のある役者を持って来て欲しかったかなー。
愛されキャラであることは伝わるけれども、コリン・ファースの兄に見えたかというと見えなかった。
シンプソン夫人も、あそこまで下げて描かなくてもという気もした。
まあ時代の気分を映したのであろうから、それはそれで興味深い。
構図も、フランス映画を思い出させた。ここまで構図に凝っているのが見えたイギリス映画は、
多分わたしは初。アートっぽかったですね。
ジェフリー・ラッシュの診察室はとてもヌーボーな感じですね。アートアンドクラフトというよりは
よりヌーボー的。そこもフランス映画の雰囲気だったかも。
見ごたえがある映画でした。
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