PR

< 清須会議 >

あら、ずいぶん地味なタイトルを……と思った。今まではいかにも三谷幸喜作品、という
タイトルが多かったからね。しかも清須という表記を見たのは初だった。多数派は清州だよね?

大泉洋が秀吉をやる時点でリッパなコメディになると思っていたのだが、コメディというわけでは
なかった。笑いどころは多々あるけれども。

映画1本として見れば、どこがどうとはいえないながらどことなく不満が滲み出る作りだった。
部分部分はとても良く出来てると思うんだけど、全体像として何かが足りない気がした。
しかしまるっきり舞台、という作りの「笑いの大学」から見てて、
1作ごとに映画に近づいて来てるなと思う。今回はコマ割りでも色々やってて、
今までで一番映画っぽい気がした。

役柄同士の対峙は大変見ごたえがあったよ。
一番響いたのは丹羽長秀の苦悩だった。上手く書いたよね。三谷さん。
もちろん小日向文世が上手くなければ、全く響かない役どころで。さすがです。
評定の場の、あり得ないほど長く続く小日向さんの無言は、凡百の書き手ならばもっと前に
苦悩を言葉にしてしまうシーンだと思うので、あそこまでひっぱる三谷幸喜もさすがだなと思う。

三法師を抱いた秀吉にひれ伏す、柴田勝家の葛藤も名場面だった。
だがわたしは、役所公司の役柄が苦手だった……。
「有頂天ホテル」でもまるっきり同じ系統だけど、マヌケで純情でいいヤツというのは、見ててツライよ。
必ず最後に冷酷な現実に向き合わなければならないわけじゃないですか。
そういう方向でばかり役所公司を使うのは、そろそろ止めて欲しい。
今度は別な役を当ててね。

でもまあ、いつもそうだけど、役者がみんなテガラですよ。三谷作品は。
そう感じさせる脚本と監督ももちろん。

大泉洋の芝居が上手いのは前から知っていたが、コミカルなシーンはこってりコミカルに、
シリアスなシーンはコミカルさの中でうっすら漂うシリアスに、って、その配分が絶妙だよね。
特に今回は外見が完全にギャグなわけで……。そこでシリアス部分に説得力を持たせられるのは力量だなあ。
ただもう少し注文をつければ、お市の方に対する執着の書き方が少し足りなかったかもしれないね。
まあそこをあまりディープにすると、柴田勝家を滅ぼしたのが天下人としての行動なのか、
単に嫉妬なのか……それは史実においても重層的に存在した理由だと思うが、
嫉妬の割合があまり高くなっても、天下人としての気概が薄くなるか。

正直、男性陣はもう少し見栄えよくしてほしかった。それを言うなら女性陣も鉄漿ツラかった。

今回、点景で一番見事だと思ったのは、寧の力いっぱいのダンスシーンだなー。
中谷美紀エライ。女優根性。底抜けに明るい、しかし明るいだけではない寧の造型が良かった。
けっこう北の政所は、なんでもわかっている母性として描かれることが多いでしょう。
でも今回の役柄では、そんな慈母観音のような寧ではなく、秀吉に惚れている妻、甘えている妻、
しかししっかり支えている妻、というのを見せてくれた。
眉毛も見事だった。

鈴木京香の公家顔がコワイのなんの。彼女はだいぶ戯画寄りの造型。
でもそこで迫力もあれば説得力もあるという風に作ってくるのはやっぱりエライ。
あんまり取り澄ましても型にはまるオソレがあるしね。
もう少し、柴田勝家のことが好きになってくれたら双方に救いがあるのになあ……。

佐藤浩市は今回、そこまで目立ってないけど、いつもコッテリ風味だしたまにはいいでしょう。
小芝居が好きだった。手のつば付けられてゲンナリするところとか。
池田恒興の映画の中での動きが“どことなく不満を感じる”部分の一つかもしれない。
あんな狭っくるしい城の間取りで、柴田勝家との酒盛りを断って、はす向かいの秀吉の宴会に
参加出来ないよねえ、とか考えてしまう。
今回の間取りは現実を考えてしまうので納得出来なかった。もう少し広く作って欲しい、清須城。

浅野忠信がいい男だった。そういう風に信義に生きて幸せになれるのなら人間十分なのに。
それだけでは生きられないから人間はカナシイ。

伊勢谷友介は、今回他の顔ぶれとのバランスで実現は出来なかっただろうが、
外見的には信長ぴったりじゃない?唇薄くて鼻が鷲鼻。美男。
篠井英介はちょっと線が細すぎたかな……。剛毅さは感じられなかった。

わたしは剛力彩芽が相当キライな部類に入る。
……それは何故かというと、以前彼女は、中宮寺の如意輪観音を訪ねる番組の時に
MC?をやったことがあって。当時彼女はまだ17、8歳、
その年でこの仕事?という疑問がある上に、彼女が着ていたド派手な振袖がどうにも我慢ならず。

――まんま成人式だったんだよ!あの黒一色の如意輪観音を静寂の中で見つめる番組で、
そのド派手、キンキラキンの帯を止めろ!と叫んでいた。
中宮寺の仏像を見に行く番組だよね?同じ絵に入るとキンキラキンに消されて仏像が全く見えない。
売出し中の彼女を目立たせようという意図しか感じられない衣装。番組の趣旨を無視している。
それは主にスタッフの責だろうが、その後のシゴトぶりを見ていると、ゴリ押し感が強すぎて……
辟易する。本人の責任は総体においてはわずかだろうが、キライになるのは避けられない。

が、今回のこの役柄は、公家化粧がものすごく似合いましたね!
公家化粧をさせたら現時点で5本の指に入る女優かもしれない。というか、現代人で公家化粧が
似合う人がいるとは思わなかった。まさに能面。能面は写実だったんだなあ。

雰囲気的にもほわほわしてて良かったですよ。前半は嫌味なく、程よい可愛らしさ。
最後に黒いことを言いだした時でも、豹変することなく、むしろけなげさが残っていて良かった。
実際の本人のキャラクターも、わりと素直なんだろうな。そう感じさせた役柄だった。
若干印象が良くなった。

いつもの三谷組の人で、今回は一瞬しか出ない人が多かったけど、ちらっとでもいてくれて嬉しかった。
戸田恵子は非常に贅沢な、しかし大変存在が活きる出し方。あのシーンも野放図に面白かったし。
背景に天守閣が映っているところが地味におかしい。
梶原善はわりと全体的にちょこちょこ出てくるけど、そんなに目立ってない。
役柄的にはもっと目立たせることは可能だったと思うが。まあね。
近藤芳正が出たところは2回とも吹き出しちゃった。あの笑顔。

唯一、浅野和之の明智光秀はなあ……。そこまで老人にしないで欲しかった。わたしはインテリ風の、
育ち過ぎたハムレットみたいな明智光秀という方がイメージなんだよね。
天海祐希も、いつもチラッとしか出ない人。いつかもっとがっつり出して欲しいよ。山本耕史もそうだが。
しかも今回の名前が枝毛なんて……。まあいてもいなくてもいい役だけど、名前が適当すぎ。
更級六兵衛さんが出てきてくれたのはうれしかった!音楽もしっかり使ってましたよ。

しかし今回のチラッと出で、衝撃を受けるほどインパクトがあったのは、勘九郎だ。
あの清々しさはどうしたことだ!ここ数年「いい顔になったなあ」と思ってはいたが、
今回の爽やかさは、まるで掃き溜めに鶴というような趣きでしたよ!
曇りの日に突然差す陽光のようだった。ついうっかり惚れそうになってしまった。
性格の良さが出まくってるような顔をしている。充実してるんだろうなあ。公私ともに。
演技自体を見ることは少ない。いずれ、歌舞伎の舞台を見てみようかとは思う。

歴史物の映画を期待していくと、少し期待外れかなー。
まあ三谷さんに端正な歴史物を期待する人もそうそういないと思うけど。
でも場面場面は大変面白かったですし、映像的に多々工夫が見られ、2時間半、飽きませんでした。

映画はわりと爽やかに終わるが、それが史実では1年くらいしか続かないなんて知っちゃうと……
切ないね。悪者がいない話だったからこそ切ない。

わたし思ったんだけど、大泉洋で実写版ルパン三世ってのはどうでしょうか。
その場合、浅野忠信を次元。五右衛門でもいいと思うんだけど、そうなると次元のキャスティングが
難しくなる。五右衛門と峰不二子、銭型警部のキャスティングは未定。
つーか、三谷幸喜が作りこんだら相当面白くなりそうだが……本人、あんまり好みじゃないっぽいか。
あ、今回の映画のエンドロールで、山寺宏一(いろいろな声)は笑ったなあ。

コメント