しょうこりもなく、再度プライスコレクション展に行って来ました。
20点くらい入れ替えをするので、その入れ替えた作品を見るために。
その3から続く。
前回とは逆に、最後の若冲コーナーから見た。まあさくさくと。
「鳥獣花木図屏風」
前回よりも色がくすんだ印象。こんな1ヶ月弱で色が変わるわけはないが、照明は作品には良くないよね。
アヒルとメンドリを見て笑ってきた。
胸を張った鳳凰もよく見た。よくよく見るとこの鳳凰、相当にでかいですよね。鳥のくせに象並み。
このポーズがいいなあ。
じっと見てると、思ったよりもはるかに多くの動物がいることに気付く。隠し絵みたい。
そんな意図を持って描いたとは思わないが、升目描きがそういった効果も上げている。
こないだ、「ぶらぶら美術・博物館」でプライスコレクション展を取り上げていた。
けっこうこの番組は好きで見てます。啓蒙されることは少ないが、軽薄さがいい。
しかしその中の数少ない啓蒙が、若冲の「葡萄図」でした。
前回、わたしは見どころが謎な作品と言ったけれども、番組内で言われた通り、
……そうか、一回勝負で描くのはけっこう技術がいるな。
近くで見ると葡萄の一粒一粒がつややかできれい。でもガラスケースの中にある距離感では、
そのあたりはあんまりわからないなあ。これはテレビで寄ってくれたお手柄。
「うんうん、なるほど」と頷いて見て来た。
あとは「紫陽花双鶏図」を、前回の反省を踏まえて見直してみた。
前回見たのは首回りのベージュの部分だけだったが、羽とか紫陽花とか、足も見て来た。
トサカの点々細かい。まあ執念を感じる絵ですよ。
「親鶏と雛図」
相変わらず尾羽の線の勢いが素晴らしい。超カッコイイと言いたい。
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今回の、これだ!というのは2点のみ。
河鍋暁斎「達磨図」。
これはスゴイ。通常の順路だと展示のかなり最初の方だから、もっとインパクトが強かったろう。
達磨図としてはでかさもでかいし(半畳くらいかね)、何より線の確かさが。
体の方はそこまでではないように感じたけど、顔回りなんて、この線はここで動かない!という
見事な確かさ。三好達治の詩を思い出した。三好達治もまさにこの言葉はここ、という詩を書く。
線が媚びてない。力強い。これはもう迷いなく買い。
……まあ、家に飾る気にはならんけど。
「紅白梅図屏風」。
これは楽しみだった。テレビで見て以来見てみたいと思っていた。作者不詳。
素直さがとても気持ちいい絵。
尾形光琳の「紅白梅図屏風」とは対極を成す――光琳のは技巧で、デザインで、
これでもかという鋭さを感じさせるのに対し、
この「紅白梅図屏風」は……鋭さなんかは欠片もない。かといって、和みを狙ってもいない。
端正というわけでもない。華やかすぎず、上手過ぎず、可愛過ぎず、――気持ちのいい絵。
春の。待ちわびた春の。満開の梅の姿をそのまま感じさせるものとして無類。
光琳の絵では、春の喜びは感じないでしょう。でも、こちらの「紅白梅図屏風」を
至近距離から見上げていると、梅林に迷い込んだ幸福感を抱く。
実際に描かれたものは、ひたすら同じように愚直に繰り返された梅の一輪一輪で、
構図にも作為は見られない。画家はひたすら一双を梅で埋めていった。
実際、右隻左隻を、こんなに同じように描く屏風は珍しいのではないか。
右隻左隻はやはりデザインのポイントで、必ずどこかに対照を含んでいるはずだと思うのに。
わたしの目には、対照はまったく見つからなかった。
いや、屏風なんてどうしたって対照を意識するもんと違うかね?それなのに不思議なほど同じ。
かといって、ぼーっとして描いてるかというと、画面のアクセントとしてちょこちょこある短冊の、
地模様が繊細この上ない。しかもまたそれを実に控えめな色使いで……
下手するとその地模様に気付かないほど地味な色使いで描いている。
もっと気に入ったのは、その短冊を吊り下げている糸の色合い。
毛糸でいうところの段染め。段染めの五色の糸。
一色で塗っても構わないようにさえ思える極細の糸なのに、丁寧に五色に塗り分けている。
細かいところまで気をつかっている、しかし繊細すぎない、達者な画家です。
達者で素直というのは――両立し難いものだと思うが、どうかね。
それが成立している珍しい作品。いつか画家名がわかる日が来るだろうか。
この2点を見られただけで、満足。
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あとはちょこちょこ。
プライスコレクション外の、京都国立近代美術館が貸してくれた、
小野竹喬「奥の細道句抄絵」象潟が良かった。
童画的な可愛らしさ。こういう絵なら家に飾りたいと思う。
期間中、シリーズの4点が展示されたようだが、笠島も見てみたいね。
まあこれは京都へ見に行けばいいんだろう。
円山応挙「牡丹孔雀図」(これは宮内庁三の丸尚蔵館より)
長沢芦雪「牡丹孔雀図屏風」。
師匠と弟子の作品が並べてあり、画題や構図もほぼ同じ。
優劣をつけようと思って見比べてみたけど、――どっちも達者です。優劣つけがたいです。
応挙の方を見て、「やっぱり応挙の勝ちだろ」と思いつつ芦雪を見ると「うーん、芦雪も上手い」。
ただ応挙の方が、適正鑑賞距離が若干遠い気がした。10センチ20センチくらいの差だが。
芦雪はもう一歩近づきたい気がした。そして、孔雀は甲乙つけがたくても、
牡丹は芦雪の方が凄味がある。この凄味を嫌味に感じる人もいるかもしれないが、
わたしは牡丹に関しては芦雪が勝ち。応挙の牡丹はおっとり。良家の子女風。
芦雪の牡丹は女優風か。
曾我蕭白「野馬図屏風」
今回見たのは左隻。これも蹄だった。中央かたまりの右に飛び出ている蹄。
馬の横顔、胸にかけての線もいい。
だがそのかたまりの、下半分は感心しない。線自体も決まっている感じがしないし……
特にひっくりかえっている馬の線はまるで勢いがない。ちょっと破天荒を狙いすぎて
どっちつかずになったのではないか。右隻の方が良かった。
こんなところか。
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2回目はむしろ、前にあった作品を懐かしむことが多かった。
円山応挙「懸崖飛泉図屏風」
伊藤若冲「鶴図屏風」
酒井抱一「佐野渡図屏風」
吉村孝敬(よしむらこうけい)「唐獅子図」
「源氏物語図屏風」
葛蛇玉「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」
上記作品は、もう見られないことが寂しかった。
――入れ替えというのも良し悪しだな。前に見た作品が印象に残っている場合、
その場所に入れ替えて置かれた作品を虚心坦懐に見られない。
「これだったら前のものの方が……」と思ってしまうので、入れ替え後の作品の評価が低くなると思う。
前と後を比べる必然性は全くないはずなのに。
まあとにかく、いいものを見せてもらいました。
プライスさん、どうもありがとう。
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