その2から続く。
……もう正直、この辺に来ると(実際にエキシビを見た時に)疲労困憊していてね。
酒井抱一の「十二か月花鳥図」のあたりで「もうだめだ」と思いました。
もう見る根性が残ってない。博物館とかには仮眠室を設ける、というのは駄目でしょうか市長さん。
それでも何とか見たんですけどねえ。そんな状態でも見れば惹きこまれるほど、
いい出来の作品がやはり続くんだから困る。
こないだテレビで取り上げていた「簗図屏風」
これは若干過ぎた力強さなのかな。今まで繊細なもんばっかり見て来た目には、
この金でこの量感は強すぎるのではないと思うが。どこか違和感のあるバランス。
銀杏と赤く色づいた蔦も、金の風景にはそぐわない生命感。
まだ右隻の笹や菊くらいならわかるんだけどね。
簗にかかった魚は、テレビで見た時よりは若干生きてる。でもまあ死んだ魚だと思う。
死んだアユを買ってきて見ながら描いたような感じ。
そして簗にかかる水飛沫は、――これはどう見ても水飛沫には見えず、見た感じシメジだ。
円山応挙「懸崖飛泉図屏風」
これが今回の白眉かもしれない。個人的に。
右隻が四曲、左隻が八曲の珍しい一双。……「簗図」もむしろそうした方が良かったのでは。
なんといっても余白の白がきれいだ。これは細部の筆致とかを確認する必要はさらさらなくて、
(いや、確認してもいいけど)一双を一目におさめてひたすらそのバランスを鑑賞するのが正解。
画家の趣味の良さに脱帽。なんともいえず上品な、旨味のある絵。
そして、残念ながら図録には載っていない部分だけれども、屏風の縁もなかなかですよ。
褪めたような藍色に淡いサーモンピンクと――しまった、もう一色なんだっけかな。
もう一色で花模様なんですけど。
少し離れて見た時には若干光ってて、七宝ではないにせよ漆かなんかかと思っていたわけです。
しかし近寄ると布。近くで見るとちょっと安っぽい?あらら、手を抜いたなあ、と思いながら
更に見ると実は刺繍でした。多分褪色したんだろうね。
作りたてはもっと色も鮮やかで艶々していたに違いない。やはり良い趣味だ。
鈴木其一「青桐・紅楓図」
ペアで一組の掛け軸。左の紅葉の方は、緑と赤の具合が繊細で美しくて、
一昨年行った京都で撮った写真を思い出した。こういう緑と赤の混淆はある。
それに対して右の青桐はわりとざっくりおぼろげに描いていて、雰囲気的にお揃いな感じではない。
むしろそこを狙ったのかもしれないが。
紅葉の余白には微妙に一考の余地ありかと。
鈴木其一「貝図」
若冲を彷彿とさせるような、きっちり精巧に描いた絵。若冲ほど無謀に数は描いてないけど。
アサリの模様が若干デコですかね。アカガイのストライプの揃っていること。
まあほんとに手が効いた画家っぽい。
だが貝に梅の実を合わせるのは何かの定番なのか?初めて見たと思うんだけど。
初夏の季節感ということだろうか。まあ海のもので貝に合わせるようなラインっぽいものというと、
……海藻。うーん、あんまりすっきりはしないわな。
あとはね。
このコーナーは植物メインなので、ああきれいね、で十分なんだけれども。
亀岡規礼「撫子に蜻蛉図」←ここまで細かく描かれると頭が下がる。
鈴木守一「秋草図」←これはピンとこなかった。すごく影が薄い感じ。他が強いだけに。
鈴木其一「柳に白鷺図屏風」←この鷺は飛んでる気がせず、構図的にも疑問な感じ。静けさはあるが。
酒井抱一「十二か月花鳥図」←ここでどうにも集中力が切れたので、燕子花の形の美しさしか記憶にない。
最後が若冲コーナー。
「葡萄図」
プライスさんが初めて買った若冲として有名。正直、何がそこまで気に入ったのか?困るような絵。
下半分のバランスはけっこう好きだけど。でも地味な絵ですからね。
多分骨董屋の店先に並んでいても、目に止まるような絵ではない。
でもこれが出会いで、プライスコレクションがここまで大きく育ち、
その恩恵を我々が享受していることを考えると、あだやおろそかには扱えません。
「鶴図屏風」
鶴の丸みのラインがねえ……。たまご型の優しさがねえ……。うっとり。
あとは尾羽の黒がしっとりとしていてきれい。
だがくちばしのぶつぶつはけっこうコワイ。
「紫陽花双鶏図」
ザ・若冲のニワトリ。あんまり他の部分はみず、首回りのベージュのふさふさのところだけに
目がいってしまった。雌鶏の毛並みや雄鶏の尾羽、アジサイやバラももう少し見てくるべきだった。
トサカの点々とか。
あとはね。
「親鶏と雛図」←とにかく尾羽のラインがものすごくかっこいい。
「黄檗山万福寺境内図」←思わず二度見してしまったほど……若冲っぽくない。マーカーで描いた感じ。
とぼけた味があって、悪くはない。ここまで違うとほんとに若冲かいな、と思うが、
むしろこんなに違うものを贋作するとしたら、製作者は一体何を考えているのか正気を疑う。
「伏見人形図」←これもとても若冲には見えん。この大らかさを描く人が、あの狂気の沙汰ではないかと
思うほどの超細密画を描くとはちょっと信じられん。独学の若冲は、そこまで器用な画家だったろうか。
他の、鷹とか鯉は、わたしはそこまでではないかな。筋目描きは技法としては面白いけど、
効果はそんなに好きじゃないようだ。
そして「鳥獣花木図屏風」
同工の静岡県美術館「樹花鳥獣図屏風」は以前見た。
これは感心しなかったからなー。他の展示品がヒドすぎたというのもあるかもしれないが、
とにかく「こんなもん?」的な逆のオドロキ。
今回の「鳥獣花木図屏風」は、こうでないと!という予想通りの良さでした。
これはしたくなるわ。風呂場のタイル絵に。
コバルトブルー?のところの剥落が目立って残念だったなあ。
金と暇をかければ修復するのはそんなに難しくはないと思うけど、修復するのはむしろ凶かもしれない。
ぱっとした色彩の、しかもこんなにモダンなものだからこそ、あまり完璧だと時代が感じられず、
味わいが浅くなるかもしれない。
笑っちゃったのは、雌鶏の正面向き。これは他の動物色々いるなかで、隣に雄鶏がいるからこそ
ああ雌鶏か、とわかるので、ぱっと見真ん丸で何かわかりませんやん。
あ、今図録で気付いたが、アヒルの正面向きもけっこうマヌケで可愛い。
升目がとても目立つところと、ほぼ升目関係なく普通に形をとっているところがあるのは
どうしてなんでしょうね?バランス?どういう法則性が。ここは前から気になっている部分。
実際に見ると、色が鮮やかで、生命感!という感じ。
この鮮やかさは実際に見るべきだ。
というわけで、最後まで来ましたが……
多分そのうち「その4」がある。なぜかというと……だいぶ展示品、入れ替えるようなんですな。
数えて見たところ、20点くらい。
100点のうち20点見られないんじゃなあ。80%しか見てないってことですよ。
テレビで見て、すごい見たいと思っていた「紅梅白梅図」も入れ替えで後半から。
もう一度、来ずばなるまい。
エキシビの展示作品に会期中の入れ替えがあるのはわりと普通のことで、
特に日本画関連は多いですが、いままで二度も見に来ようと思ったものはなかった。
でもこれは行きます。もう一度。
その時は後ろから見よう。疲れて眠くなった酒井抱一あたりから。
あ、そうそう、今回の展示では、子供向けにタイトルをつけなおしていたんですけどねえ。
最初は感心しなかったが、これけっこういいんではないですかね。
日本画は題がみんな似通ってて、タイトルをきいただけでピンと来るのが難しい。
「虎図」なんか、ここに並んでるだけで6つあるしね。
子供向けタイトルで思い出せる絵が数多くあった。アリガタかったです。
日本画のエキシビで子供を視野に入れたものも少ないかもしれないが、
今後も倣っていいものではないか。
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