その1から続く。
「脇息に倚る遊女図」
完全に江戸風俗なので、これで明石の上と言われても困るが、
まあ見立てはあちこちでやっていることですからね。
この絵はね。この絵に限ったことではないけどものすごく線が細かいの。品がいいね。
以前、截金の江里佐代子の線の細さに驚愕したことがあったが、それに似たものを感じる繊細さ。
日本人って……どこまでも繊細さを突き詰める性分だなあ。まあ繊細さに限らないけれども。
山口素絢(やまぐちそけん)「美人に犬図」
これはデッサンとしてはなにがなにやら、という状態だが、
何といっても真骨頂は着物の透け感。真っ赤な襦袢の透け具合が美しい。
しかし帯もこんなにゆるりと結んで、胸もここまではだけていると、
実際はそうとう崩れた人だと思う。もう少しきっちりとした着こなしの方が好みだ。
この袖のうねりとか体のひねりとか、どこかしらマニエリスム。
長谷川派「義経記図屏風」
このコーナーの白眉はこれですね。これも細かくきっちり描いてるわ。
どこがどの場面かじっくり見てみたんだけど、静御前が鶴岡八幡で舞っているところと、
秀衡との対面くらいしかわからなかった。静御前は鎧兜で薙刀を振り回したりしないやろ。
そうか、矢は白壁に突き刺さるんだ。土壁だもんなあ。
さすまたや薙刀の得物の描き分けが面白かった。
たなびく金雲やほのかに咲く桜で、ぱっと見は雅やかに見える画面だけども、
けっこうあちこちで首が落とされ、血が噴き出してます。
ドラマティックな画題。しかも義経記といっても義経没落後の部分のみだから皆さびしい。
これは誰が持った屏風なんだろう。このテーマを望む人はどんな立場にいた人か。
酒井抱一「佐野渡図屏風」
歌にちなむとか、そういう部分での由縁しさはわたしにはないが、
とにかくこの絵は雪ですよ!!
雪がそれはそれはきれい。神々しくさえ見える。図録では再現度ゼロ。これは是非現物を。
人物は……何でもいい感じです。何もなくって、雪だけっちゅうわけにもいかんしね。
あとは、
鈴木其一「七夕図」←端正。ザ・掛け軸。牽牛がちょっと立派すぎだな。
鈴木其一「狐の嫁入り図」←今回鈴木其一はわりあいに来ているけど、みんな雰囲気が違う。
相当にいろんなものを描いた人のようだ。少し器用すぎる部分があったのでは。
亀岡規礼(かめおかきれい)「虎図」
虎は何枚かあったけど、毛なみの美しさと構図の斬新さでこれ。
他の人の虎も、毛なみはそれぞれに美しかった。
だがこれは、ほんとに毛皮を貼りつけたのではないか、というほどの艶があり、
縦長の画面にこのアングルで描きこんだというのが斬新。
形は若干おかしいけど、生き物の体の柔らかさがよく出ていると思う。
曾我蕭白「野馬図屏風」
今回見たのはこれの右隻。これはね。すごいですよ。
線がすごい。まるで書道のような線。あの蹄を見てみろ。
野性味溢れる馬たちを、金のベタ塗のなか、墨一色で描いたのも斬新だ。
これが普通の白い画面に墨なら、それなりに面白い一双にはなっただろうけど、
ここまでの面白みはなかったに違いない。
吉村孝敬(よしむらこうけい)「唐獅子図」
これも一目見て吹き出す類。なんだこのカワイさは!!
このままゆるキャラ決定ですよ。いや、むしろすでにどっかで使われてるんじゃないのか。
親獅子の困惑したような表情と(多分これは狙って描いたんじゃないと思うんだけど)、
仔獅子が4匹元気いっぱい。また彼らも親譲りの愛嬌のある顔をしちゃって……
ころんとしたフォルムは瓜坊を思い出させる。これもやっぱり買うよなあ。
あとは、
森狙仙「梅花猿猴図」←狙仙の猿。でもそこまでピンとはこなかった。他に何枚か有。
円山応震「駱駝図」←ラクダとダチョウの合いの子のように見える……。
土佐光起「薄に鶉図」←ウズラかわいー。そして若干美味しそう。
柴田是真「鷹と猿図」←鷹は見事。漆の黒がさすが。だが猿はむしろ要らなかった気がする。
波と岩の表現も不満が残る気がするな。
……また休憩入れましょうかね。まだ先は長いんですよ。もう1部屋分。
その3に続く。
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