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◇ 森谷明子「千年の黙 異本源氏物語」

このタイトルは「せんねんのしじま」と読むそうだ。普通にもくと読んでしまいますが。

とってもまともな話でした。まともすぎるほどまとも。そういう意味では若干面白みが足りないかも。
しかし源氏物語を要素として取り上げて、ここまでちゃんと書いてくれるなら満足です。
3年前に読んだ「烏鷺寺異聞」(紫式部と清少納言を出してる)なんて、一体誰に読んで欲しいのかサッパリわからない話で……。
怒髪天を衝いたものでした。

これはタイトルに源氏物語とついているが、物語内ミステリというわけではなくて
(実はそういう話を期待していた。そういう話も出来れば読んでみたい。誰か書いて。)
紫式部を探偵役とした日常の謎系ミステリ。
あ、うーん、でも1冊の半分は日常の謎系ミステリだが、
後半は源氏物語の散逸巻の有無をネタにしたミステリです。
なので、源氏物語好きじゃないと興味が続かないかもしれない。

わたしは源氏好きなので、なかなか面白く読みました。
紫式部の人物造形が納得出来る。……納得できるだけにとても地味、なのだが、
脇役(語り手か)に元気いっぱいの女童を配することで地味になりすぎることを回避している。
まあ、王朝ものでミステリをやろうというのはとても厳しい選択で、
登場人物の本名や呼び名、台詞の敬語具合、どこまで口語化するか、どこまで古語を入れるか、
……地雷はもう、いくらでもある。
気になるところもないではなかったけど、そこらへんは作者も割り切ってるんだろう。
一番シンプルな道を選んでいたようだ。その潔さ良し。

誠実な書き手という印象。
一応ざっとツブそうかな、という予定でいる。タイトルからすると、他にも王朝ものを
書いてるようだ。少し楽しみ。飛躍はないタイプかもしれないが着実。

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ところでいつも思うが、「かかやく日の宮」の巻名は、他の巻名とどう整合性の説明をつけるんだろう。
他は二文字、あるいは三文字の漢字。……あれ、巻名をつけたのは定家だか誰だか、
後世の別の人でしたっけ?

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