はるか昔、中学校の頃。
井上ひさしの「家庭口論」というエッセイを読んでいて、彼が「カラマーゾフの兄弟」を
えらく褒めていた。これこそ小説だ!おれもこのくらいのものを書けたら死んでもいい!と。
それから数十年。ようやく読んでみました。
……うーん。まあ、こんなもんですよ、ね。
ロシア文学だからさ。長大で、文庫厚いの上中下なのは想定内だし、そのわりには
徒労感もなかったんだけど。
いや、そこそこ面白かったんです。トルストイの「戦争と平和」と比べれば格段に。
法廷物の部分もあり、宗教小説の部分もあり、家庭小説であり、
ミステリのにおいのする藪の中的な話でもあり。ストーリーには動きがあった。
ただまあ、わたしにとっては長いロシアものにしては面白かった、という程度の感想しかないと。
二男のイワンがとても近代人でびっくりした。
すぐそこの人に感じた。でも彼のことを最後にもっと掘り下げて書くのかと思いきや、そうでもなく。
もっと不思議なのは、前半にあれだけ焦点が当てられている末っ子のアリョーシャ、
彼も後半はほぼ重要な出番なしですよね。
彼が還俗したことに意味が見出せません。
恋愛小説ってんでもないだろうけど、カテリーナともう一人の女(名前忘れた。グルーシェニカ?)と
ミーチャとイワンの四角関係は、もっとそれぞれの心情を丁寧に書いた方が。
というより、これはこれで別の話にした方がいいかもねえ。
ドタバタ感が多すぎですよ。
全体的にあまりにも話を長大にしすぎて、一つ一つの部分を考えると、何かイロイロ足りない気が。
いろいろな場面でロシアを語っているのは印象に残った。
そういう時代だったんだろうか。今まさに自国の歴史の転換点に来ているという自覚が、
ドストエフスキーとその同時代人の意識にあったんだろうか。
今、日本の小説で「日本とは」「日本人とは」を熱く延々と語るような話はありませんよね。
この小説は、ロシアの思春期に書かれた話なんだろう。国としての自己に向けられた熱い目。
あとは全体的に長いのがどうも……。
部分部分が3分の1くらいは短くなっていた方が話が締まったと思うなあ。
まあ職業的に書くというよりは、運命的に書く作家の時代だろうし、
そのロシア的たっぷり感こそが真骨頂と言えないこともないんだろうけど。
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訳者によってずいぶん評価がいろいろ。わたしは原卓也訳で特に不満は感じなかった気がするが……
読み比べる根性はない。
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