小説としては「悪童日記」に連なる系譜。
三部作に続く4作目なのか、という期待もされたようだが、
作者本人は別のものだと言っている。
だが、彼女の作品はその人生から直接生まれるものだから、
別のものと言えば別のものなんだけど、続編と言っても間違いではないだろうね。
小説として――なら、多少小粒感があるか。
「悪童日記」がある以上、その系統でさらにがっつりしたものを書かない限り、
やはり薄味に感じられる。中身がないという意味ではないけど薄味。
だが、巻末に収められた「母語と敵語」(来日記念講演会より)という文章は胸に来る。
自分を文盲と表現せざるを得なかった、その絶望感を想像すると。
言葉はやはりアイデンティティの基本だと思う。
そして、言葉のうちの多くを文字に拠るタイプの人もいる。アゴタ・クリストフはそのタイプでしょう。
読み書き。――それは要らない人にはほとんど要らないものなのだけれど、
必要な人にはこの上なく大事なもの。
お米のようなものと言えばいいか。
お米なんて、英米人には単に野菜の一つでしかないが、我々日本人の多くにとっては
「ないと始まらないもの」ですしね。
米がない。やはりその状態はつらい。
国を。母語を。捨てなくてはならない人が極力少なくなるように。
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