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◆ 世界遺産ヴェネツィア展 魅惑の芸術―千年の都

宮城県美術館で、5月13日まで。

見に行った。だが見応えがあったかというと、実はあんまりなかった。

ま、けちょんけちょんに貶すほどでもない。
展示品の――数は来ていたし、それなりに興味深くもあった。
ヴェネツィアの歴史的風俗としてのエキシビなので、
「海の都の物語」なんかを読んでいるヴェネツィア好きが懐かしむ、あるいは憧れるという類ですな。
……しかしそれを美術館でやるというのは微妙。むしろ博物館ならば。

わたしはヴェネツィア好きなので、楽しかったことは楽しかったんだけどね。
初っ端に出て来る何枚かの壁地図は、世界各地どこでもありがちなものだけど、
特にヴェネツィアはその形状から、今でも空撮されることが多い場所柄なのて楽しい。
この建物が何ということがすぐわかる。時代ごとの細部の変遷も面白い。

16世紀だか17世紀だかの地図で、上空500メートルからの鳥瞰図と書いてあったようだが、
どういう方法で描いたのだろうね?
モンゴルフィエの熱気球は18世紀末……。まあ「別に天井にはりつかなくても描ける」と
妹尾河童さんも言っているので、実際高度500メートルに人が行く必要はないのかもしれないが。

コインが面白かった。知識があったらもっと面白かったろう。
銀貨はどれも立派で……これがざくざくあったら、たしかに「お宝!」という感じだなあ。
それでも小さな金貨の輝きにはかなわないんだろうけど。

工芸品関係もまあまあ。
マジョルカ焼きとかイスラムデザインの香炉とか。
背丈くらいの高さのキャビネットがあり(南ドイツ辺りで作られたの可能性が高いそうだが)、
装飾につけられていた紫水晶製のギリシア柱には「おお」と思った。
20センチくらいのミニチュアな感じのが何対も。
これには貴石モザイクもあしらわれていたが、これは若干下手。
もう少し石の選択をちゃんとしないと、風景がに見えない。
男性衣装の刺繍がとてもきれいだった。女性のドレスよりインパクトがあった。

しかし絵画作品には全体的な不満があるなー。
もう少しがんばりましょう、と言いたい。そのレベルが山ほどあるので最後の方は飽きた。
これでエキシビの印象が2段階くらい落ちた。数を揃えりゃいいってものでもない。

ヴェネツィア展っていうくらいだから、マイナーどころにしてもティツィアーノの一枚くらいは
来ていないとダメでしょうよ。ティントレットやティエポロ、ヴェロネーゼあたりとか。
ほとんどお土産品並みに数があるカナレットでさえ1枚しか。工房作品は他に2枚あるにせよ。

その中で、じっと見る気になったのは、ニッコロ・カッサーナなる人の
「ジャンバッティスタ・ドナ(コンスタンティノポリスのバイロ)の肖像」。
功成り遂げた人の普通の(背景のアヤ・ソフィアが通俗的)肖像画ではあるのだろうが、
でも人物が伝わる肖像画だと感じた。衣装の表現も良かった。

それから、カノーヴァによる女性画があった。
タイトルが「驚き」で、「むしろアンタがこんな絵を描いていたことが驚きだよ!」と
内心でツッコんでいた。彼の彫刻は神秘的だが、絵はひたすら可愛い。
マリー・ローランサンとか東郷青児を思い出した。
絵柄が似ているというほどではないんだけど。時代が妙に新しく見える。

実は、15時半頃入場したところ、お客さんがえらく少なくて。人影まばら。
そのおかげで、実に久しぶりにエキシビの空間を堪能出来ました。
静寂を楽しむ。……というには、空調の音がうるさかったんだけどさ。
なので、エキシビの内容には不満を持ちつつ、満ち足りた気分にはなった。
ヨーロッパの香りを楽しんで来た。

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