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◆ 国宝 紅白梅図屏風とMOA美術館の名品。

多分急遽決まったのであろう、知らない人も多いと思うが、
現在仙台市博物館では「国宝 紅白梅図屏風とMOA美術館の名品」という特別展をやっている。

ポスターを見た時は「おっ」と言って固まった。
そうですか。見られますか。尾形光琳。
「紅白梅図屏風」は、個人的な認定では日本美術で一、二を争う名品――というのが言い過ぎならば、
デザイン・工芸部門一位――しかしわたしの少ない知識では、他のエントリー作品を
あまり思いつかなかったので、一位と言っていいのか不明――なのだが、
今まで見たことはなかった。MOA美術館には行ったことがない。
これって「モア美術館」だと思っていましたが違うんですね。NYの美術館が「モマ」なので。

いつだったか、わりと最近、NHKでこの屏風の特集やってましたよ。
「美の饗宴」でしたね。この番組はいい仕事だと思って(興味のある内容の時は)見ている。
今回はこの屏風の成分調査を行い、その結果を受けての番組だった。
なかなか面白かった。正直、内容はあまり覚えていないんだけど。
(だからNHKは、サイトをもっと緻密に作ってくれと。)

実は初日に行った。初日は混むのかな、どうなのかな、と思いながら行ったが、
ぎりぎり駐車場に入れて、中の感じもまあまあ。リラックスして見られた。
予想通り、来ている作品数は少ない。数えるほど。
でもこれくらいこじんまりとした特別展もいいんじゃないの。入場料も安いし。
400円で一級品プラス小粒な名品という内容は、お得感がありました。

展示の一番最後に、一点豪華主義的に「紅白梅図屏風」。
空間を贅沢に使って――というより、他に展示するものがなかっただけだが、むしろ良かったと思う。

目に入った第一印象は、「違和感」。
白が強い。白梅が強い――むしろ紅梅が弱い。
照明がだいぶ暗めのせいか。明度の高い白だけが目立って、左右のバランスが悪い気がする。

次に、水紋の意外な大きさ。
テレビでも写真でも、おそらく何度も見ているはずなのに、
実際に見ると水紋のスケール感が違った。感覚的には倍くらいの大きさ。
川というよりはむしろ海の激しさを感じたくらい。
それに伴い、川の量感がテレビで見た時よりもはるかに大きくて。図太さを感じた。

琳派というと、わたしとしては繊細・華麗なイメージなのだが、実際のところは
あまり繊細さはないのかもしれないね。
「八橋蒔絵螺鈿硯箱」の武骨さにむしろ違和感があったけれど、
もしかして彼らは、突き詰めて突き詰めて緻密になりすぎてしまった当時の日本美術に
風穴を開ける存在だったのかもしれない。

だって、今回来ている「樵夫蒔絵硯箱」も伝本阿弥光悦で、それも図太い……。
どでん!という感じで木こりのどアップが。螺鈿で木こりって!
どアップで、しかも顔がないって!いかに謡曲が出典かもしれないっていっても、
普通はやらないことだと思います。螺鈿でやるとしたらまず王朝風俗ですよねー。

「紅白梅図屏風」に話を戻せば、完成当初はこの紅梅もあるいはもっと鮮やかだったか、と思う。
実は今回復元制作された、川が銀色の――この銀を使ったかどうかというのが成分調査の眼目
だったらしい――方の屏風を見る分にはバランスの悪さは感じない。
(これを持って来たのも開催者の手柄)
赤が金に沈むんだな。写真やテレビで見る分には金がだいぶ鮮やかに映っている。
実際は年代を重ねて、金が重くなっている。

以上の感想は離れて見た場合。
1メートルくらいに近づくと、上記の部分は特に気にならなくなってくる。
右隻、左隻を別々に見ることになるせいか。
近くに寄って目につくのは、幹や枝の図太さ。大らかに、しかししっかりした線で枝が伸びている。
幹の「垂らしこみ」。それほど難しいことをやっていると見えないが、
難しいことをやるだけが能じゃない、と言いたかったのかもしれない。

白梅の鮮やかさが一番良かった。
いや、一番良かったのは本物の存在感。作家の真作でも本物のオーラが常にあるわけではない。

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「浄瑠璃物語絵巻」伝岩佐又兵衛勝以(カツモチ)筆。
こちらは日本美術の流れのままに、大変に緻密。寝殿造りを描いていて、
その中の小さい障壁画が、うわぁ、っていうくらい丁寧。うさぎもかわいー。
一番目についたのは女たちの手をしっかり描いていること。この小ささで女の手をちゃんと書くのは、
……今までわたしが気づかなかっただけかもしれないが、かなり珍しかったりしないかね?
琵琶を弾く女房の手つきが美しかった。義経の刀の鞘もしっかり描いてる。

「雪月花図」勝川春章筆。
ぼんやり説明を読んで行って、モデルが清少納言、紫式部、小野小町だと描いてあり、
なんで小野小町が江戸の町娘になってる!?と一瞬驚いたのだが、
当時は時代考証しませんから。それをいうなら今だってしない。
戦国武将を使って「戦国バサラ」を作るのと、行動的にはそれほど離れていない。
うーん。ちょっと違うか。

絵は左が清少納言で、まん中が紫式部で、右が小野小町。
これがわかったのは若干嬉しかった。本来説明書きに書いておくべき部分だとは思うけど。
清少納言は「香炉峰の雪は簾をかかげて見る」
紫式部は「石山寺の月」
小野小町は「花の色は移りにけりな」ですな。
まあ、蘊蓄というのは深まれば深まるほど知る人は少なくなりますし、
わたし程度にわかることは初歩の初歩ではある。

文句2点。

「灰被天目茶碗 銘 秋葉」。
飾り方が良くない。茶碗を普通に置いて、照明を上から当てているだけでは、
まず見たい部分である外側の釉薬が陰になって全く見えない。意味ない。

「十一面観音立像」
出自を書いといてくれないとさー。わからなかったのかもしれないけど。
腰より下が短すぎてバランスが悪かった。雰囲気は中国の影響を残す、と感じた。

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なお、特別展とは別に常設展に仙台縁の画家の屏風があり、その中の2点。

小池曲江「花鳥図屏風」。
右隻の孔雀に牡丹は大変きれいだったけれど、左隻の金鶏と海棠は、金鶏が迫力不足。
そこが残念。

東東洋「四季山水図屏風」
東東洋は昔、ここでエキシビを見たことがあり、親近感を持っている画家。
今回のこれは、多分その時には見ていない。
何がといって、左隻の川辺の風景にとても心を惹かれた。
川面の表現が。銀色に見える川がぼんやりと光る。そう、川は時々こういう風に光る。
鈍い灰色の空を映して光る。しばらく見とれた。

数も少ないので、常設展を久しぶりに見ても1時間くらいだったかな。
いいサイズだと思った。ずっとこのサイズばっかりというのも面白くないとは思うが、
どーんとした特別展の合間に、こういうエキシビが来てくれると嬉しい。

次は7月のインカ展か。その前に3月から、こちらは宮城県美術館でヴェネツィア展がありますが。
おお、来年の3月は仙台市博物館にプライスコレクションが来るのか!これは楽しみだ。
佳品がくるといいなあ。

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