金をたんまり持ってて趣味がいい。これ最強。
……と、ジョー・プライスを見るたび思う。
まず家に金がかかっている。金持ちの道楽でしか出来ない普請。
あの家も、出来れば隅から隅までじっくりと見てみたいもんだねー。
印象深いのは障子のデザインだな。あれは障子だよね?材質、和紙だよね?
カリフォルニアの邸宅で障子を採用した最大の理由は、おそらく日本画を鑑賞するのに
最適な光量の確保だと思うが、単にスタンダードな日本間にするとかはしないんですねえ。
日本びいきなら、きっちりした数寄屋にでもしそうなところなんだけど。
そこが趣味の良さ。まあ障子のデザインは少しモダンすぎる……とは思うが、
あのデザインの家にはあのくらいじゃないと嵌まらない。
彼が日本で名が知られるようになったのは、そのコレクションの中に
若冲の「鳥獣花木図屏風」があったからだろう。
テレビで初めて見た時は、うわっ、と思った。その発想の大胆さに。
思ってもやらないよ。こんな描き方。どんだけ労力がかかるのか。
想像しただけで始めるのが嫌になる。
しかし若冲は、何しろあの「動植綵絵」を描いた画家だ。……やるんだよ。その手間隙を。
現代がデジタル時代であることもその付加価値を高めたと思う。
桝目描き、というのはデジタルに通じるので――「時代を先取り!」というような
アオリ文句も使われた。ま、別に彼はデジタルを狙って描いたわけでは当然無く、
織物をヒントにしたらしい……と、どこかに書いてあった気がする。
以前、「朝鮮王朝の絵画と日本」というエキシビを見に行って、
そこで若冲の「樹花鳥獣図屏風」を見て来た。その当時は静岡県立美術館と
アメリカの収集家がそれぞれ似たような作品を持っているんだなーとうっすらと認識していた程度で、
静岡県立美術館所蔵の方が「樹花鳥獣図屏風」、ジョー・プライス所蔵が「鳥獣花木図屏風」
という、タイトルもその違いも知らなかった。
そうしたら、これらはこういう(「白象群獣図」も含めて)関係……という説がある。
佐藤康弘という学者が言っていることらしい。なので、そのまま最終的な正解というわけではない。
けっこうこの辺が錯綜しているので、何を言ってもすっきりしない感は付きまとうのだが、
テレビで見た物にしても、実際に見た物にしても、納得出来ない部分がある。
テレビで見た物(多分これは「鳥獣」)は、一部分、完全に桝目描きになっている……
専門知識の全くないわたしの素朴な疑問で、
「どうしてごくわずかな部分だけが、デジタルのカクカクした塗り方になっているのか?」
デジタルを目指すのなら(いや、目指してないだろうが)むしろ全体がこれでもいい。
そもそも、滑らかな描線で構成させるなら、桝目は必要条件じゃない気がするのだが。
人間じゃない!と叫びたくなるほど徹底して技巧を尽くす若冲にしては、
この不統一性は一体何なのか。
実際に見たら何か違うかな、と思って期待してエキシビを見に行ったのだが、
テレビで見た時に感じたほどの迫力はなく。
多分、物自体から違うので、それを同一視するのも間違っているけれども、技巧は同様な筈だから……。
正直、実際に見ても良くなかったんです。
まあ記事を信じれば工房作品。が、どうもわたしのイメージでは、若冲が弟子をとっていた
という図が浮かばなくてなー。
テレビで「独学」や「孤高」「奇想」というキーワードが使われていたせいかもしれない。
一人きりで、執念深く、対象を見つめて見つめて見つめて描いた姿しか。
教えようとして教えられるものじゃない、あの執念深さは。
――と、すっかり話が若冲にシフトしてしまったが、元に戻そう。
プライスコレクションです。
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プライスコレクションの価値は、若冲もそうなんだけど、彼はもう評価が確立されたからね。
むしろ今後は、コレクションの中の、知られていない画家にスポットが当たるはず。
今回紹介されたのは葛蛇玉(かつ・じゃぎょく)なる画家と、作者不詳の「簗図屏風」でした。
個人ブログより葛蛇玉「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」
日本画に詳しくないわたしは当然初耳。何しろwikiに項目がないくらいだから、
相当マイナーであろう。
わたしとしては大好き、というほどの絵ではないが、何かは感じる。特に黒に。
ジョーさんが言っていたけど、この屏風は部屋を暗くして見るのがいいらしい。
この台詞を聞いて「ああ、この人は趣味のある人なんだなあ」と思った。
見るヨロコビを知っている。所有するヨロコビだけではなくて。
作者不詳の「簗図屏風」
……と、リンクしたはいいが、これってば、上下に並べてるもんだから、一番大事な
「簗」が全然ダメダメじゃん!そもそも最初からここでぶった切るなよ、絵師!
いくら屏風は並べて使うのがお約束だと言ってもさー。
だからといって、左側に銀杏だけが描いてあって、右側に簗だけが描いてあっても、
それはまた違うだろうなーという気はするが。
簗を金色で描くかね。金色で描く素材かね。
魚は、細かく描いているけど、死んだ魚だね。
岸辺のもっさりした金が違和感。とか、色々あるけど、でも総合的な印象としては優良。
番組では雲谷派ではないか、という意見を紹介していた。
まあ雲谷派と言われても、ああ、なるほど、と思うことの欠片もないけど。
ほかに可愛らしい紅梅白梅図もちらっと映していて、それも作者不詳らしい。
もう少し長く見たかったな。癖がない、素直な絵だった。
口幅ったいことを言うようだが、人生の価値は「好きなものをどれだけ見つけられるか」
ということだと思う。自分にはこれさえあればいい、と思えるようなもの。
そういう意味では彼は大変幸福な人だと思います。
ごく若い頃に出会って、それから一生追い続けていられたんだから。
そして2013年3月からの仙台市博物館におけるプライスコレクション展についての記事はこちら。
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