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◇ 恩田陸「小説以外」

これは珍しく我が蔵書。3年前に買った本。積読本の順番がこの度ようやく来て、読み終わった。

小説以外 (新潮文庫)
小説以外 (新潮文庫)

posted with amazlet at 11.08.17
恩田 陸
新潮社
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あまりエッセイを書かない人が、とりあえず書いた奴を1冊にまとめておきましょう、的に
本にした物だから、細切れ感がありあり。これが惜しいんだよなー。
こんな風に並べられると何かどうもね……
同じコーナーに連載したエッセイを1冊にしたものなら統一感がある。
だが、いろんな媒体で書いた物はトーンが揃っていない。

エッセイ自体は面白いんだけどねー。
媒体がばらばらなだけに、内容の重複も見られるが、気にならない程度。
言い回しにバラエティがあるから、「あ、今度はこういう言い方をするのか」と楽しめる。

この人は変な人で、変な人はエッセイでもやっぱり変。
「憂鬱な音楽」で、サティの「ジムノペディ」が挙がるのはいいとして、
大岡越前のテーマ(どんなんだっけ?)が挙がるのもまあいいとして、
ヴィヴァルディの「四季」とか、普通ないだろう。「春」もダメで「冬」もダメなんだって。
わたしは「冬」なんか、むしろ聴くと気分がすーっとするけど。
(と思ったが、第一楽章はたしかに不安感をあおるかも……)
もちろん好き好き。しかしただ嫌いならわかるが、「四季」で憂鬱というのはレアですよねえ。

さらにモーツァルトやバッハ、ビートルズの「ヘイ・ジュード」もダメだそうだ。
オモシロイ。モーツァルトで憂鬱になるのはオモシロイ。
本人の分析によれば、あまりにも完成された音楽に現実の不合理さとのギャップを感じてしまい、
それで憂鬱になるのではないかとのこと。
でもわたしもバッハの綺羅綺羅しさには、たじろぐこともあるから、ちょっとわからんでもない。

本格推理小説=歌舞伎説とか。本格は様式美を愛でるべきものだそうだ。
なるほど。それもありかも。

   ほほほ、今日の玉三郎はどうざましょうねえ、という感覚である。
   うっとりゴージャスな気分にさせてもらえば十分なのだ。別に幕が降りたあとで
   ナイフの刺さった俳優がむくりと起き上がったからといって、「嘘じゃないか」
   なんて言おうとは思わない。しかし、演技力のないのは困るし、照明のタイミングを
   外したり、天井からバケツが落ちて来るのも困る。こんにち本格ミステリが馬鹿に
   されているのは、血糊の付いたナイフを抜いている役者に「生きてるじゃないか」と
   青筋立てる観客と、バケツを落としておきながら「俺の芝居を理解していない」と言う
   演出家がいるためで、どうにも無念である。

……こんな長引用が必要かどうかは別として、本格についての意見としてなかなか
新しいのではないかと思った。で、こういう真っ当なことを書いた後に、
ミステリファンはそれぞれの職業の知識を活かして、生涯に一篇は本格ミステリを書くという法案を、
などという提言をするのだからやっぱり変わっている。

“変わっている”を連呼しているけど、わたしは小説は変な人が書くべきだと思っているので、
これは褒め言葉ですよ。ただ、恩田陸の小説に対しては、今のところ様子見。
3、4冊は読んだけれど好きか嫌いかまだわからない。――と続けようとして、
数えてみたら実際は8冊読んでいた。
……8冊読んで好きかどうかわからないのでは好きじゃないんじゃないか?

好きとも言えないが、読むのを止めようとも思っていない。現在ツブしている最中。
しかしこの人多作だから、今リストアップしている作品を読み終わる頃には、
平気で10冊くらい新刊を出すんだろうな。

ただこの奇妙さは続けると食傷するかもしれない奇妙さかも、とは思う。
十全の小説というよりは、どっか欠落がある感じだな。
若干抑えめに行きましょう。

※※※※※※※※※※※※

この本を読んで愕然としたことがある。
恩田陸とわたしの本の好みは、おそらく決定的に合わない。

え、宮本輝の「ドナウの旅人」好きなの?
え、クリスチアナ・ブランド?
え、スティーブン・キングも好き?赤川次郎も?東野圭吾も?
篠田真由美も?(これは解説を頼まれた浮世の義理である可能性もあるが)
そして何より、佐藤賢一の「傭兵ピエール」!!?

……趣味が合う本もないわけではないけれど、「傭兵ピエール」をお薦め――というか、
長編アンソロジーを編むとしたら何を選ぶか、というお題で挙げられては、
趣味が合うとは言いかねる。断固として。
ちなみにその架空の長編アンソロジー、順番に挙げると、

1.ハリー・クレッシング「料理人」
2.三田誠広「地に火を放つ者」
3.ケン・グリムウッド「リプレイ」
4.リチャード・アダムス「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」
5.リチャード・マシスン「地獄の家」
6.パトリック・ジュースキント「香水」
7.佐藤賢一「傭兵ピエール」
8.セイント「透明人間の告白」
9.飯嶋和一「神無き月十番目の夜」
10.ヴェルナール・ウェルベル「蟻」

わたしが読んだことのある作品は3、7、8。そのうち7は221ページまでしか読めなかった。
8はそんなに面白くなかった。3はそこそこだったけど、アンソロジーに選ぶほどでは。
ほら、やっぱり趣味が合わない。

9は別作品「始祖鳥記」を読んだことがあり、かろうじて印象は良い方なのだが、
「神無き月十番目の夜」は内容がハードそうなので、ちょっと読む気にならない……
1は課題図書リストに元々入っている。2は、キリストの話らしく、今回ちょっと食指が
動いたんだけれど、日本人が書いて、納得出来るキリスト物になるかどうか大変不安なので
とりあえず止めておく。6はちょっと興味を持ったので読んでみようと思う。

しかし、この10冊に「そうそう!」と言う人は、それほど多くはないんじゃないか……
多分相当にエンタメ路線。エンタメは、面白いか否かだけであって、面白いというのは
個人差が大きいからなあ……。本人が嬉々として選んでいるのは十分伝わってくるけれども。
この人も、おそらくリストマニア。図書館で借りる本の組み合わせとかを、にやにやしながら
考えていたタイプに違いない。

こう言うと本人はがっかりするだろうけど、目下は、作品そのものよりも創作家として好きな作家。
本が好き、読むのが好き、物語が好き、というのが文章を通じてひしひしと伝わってくる。
がんばって下さい。

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