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◇ ジョン・バンヴィル「バーチウッド」(佐藤亜紀・岡崎淳子訳)

佐藤亜紀訳ということに重きを置きすぎたせいか、最初のうちは作者と訳者が
二重写しになって困った。段々気にはならなくなっていくが。
しかし今回の試み(バンヴィル作品を佐藤亜紀が訳すという)には
1+1が3になるような錬金的成果はなかったかな。予想よりも普通。

外国語作品の文章の微妙なさじ加減なんて、訳者によってどうにでも変わる。
それは、どんなに能力のある訳者がどんなに誠実に取り組んだとしてもそう。
100%という意味での完璧はありえない。
何しろ横のものを縦にするわけですから。色々と乗り越えなければならない壁がある。
なので、とりわけこういう文章勝負な作品の翻訳はほんとにハードルが高いと思うよ。
一番高いのは詩だが。詩なんか、翻訳に意味があるのかどうかというレベルの話だ。
それを考えると、バベルの塔は(むしろ神の)罪深き業ですな。

本作は「ミノタウロス」を思い出させた。地主の息子の遍歴譚という意味において。
漂う悪意は佐藤亜紀の方が輪郭がくっきりしているけど。
バンヴィルの場合は、それがじわっとにじむような悪意なのか、それともそんな仮面を被った
怯えなのか微妙なところ。いずれにせよ、怯えは悪意の温床だけれども。

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バンヴィルは以上にしようかな。別に嫌いではないけれども……

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