全8巻を――2006年11月に第1巻「霧の聖マリ」読了だから、
うおう、4年半かけて読み終わった。
今更ですけど、これはきちんきちんと続けて読むべきでしたな。
一挙に全部、ではなくていいけど少なくとも1ヶ月に1冊くらいのペースにはしておくべきだった。
ほんと今更。――ただしそう思うのは最終巻を読んだからこそだろう。
というのは、最終巻で話が巧妙に(しかし地味に)収束するんですよ。
その際、何しろ最初の方を読んだのが3、4年前だから、
「ああ、何となくそういう話もあったかなあ……」程度しか思い出せず。
思いだせるくらいのペースで読んでおけばよかったですね。
全8巻の構造は、第1巻ですでに述べられている。
えーと、……説明するのは自信ないが、全8巻で短編が100篇。
このうちプロローグとエピローグを除いた98篇は7つのグループに分けられており、
それぞれ「黄いろい場所からの挿話」「赤い場所からの挿話」「緑いろの場所からの挿話」
「橙いろの場所からの挿話」「青い場所からの挿話」「藍いろの場所からの挿話」
「菫いろの場所からの挿話」として14ずつの連作短編になっている。
これを色毎に1巻ずつまとめれば単にそれだけのものなのだが、辻はちとひねって、
たとえば第1巻から第3巻の半ばまでは「黄いろい場所からの挿話」と「赤い場所からの挿話」が
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ……と14まで交互に配置される。3巻半ばから5巻の半ばまでは緑と橙の交互、
その後7巻の終わりまでが藍と青の交互。8巻は全て菫いろ。
それで何がどうなるかというと、各色のⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ……も横の繋がりを持っている、という趣向。
あまり試みた人がいないことをやっている。
まあ普通、100篇連作短編を書く気になるかっていうと、おそらくならないだろうからねえ……
勤勉な人だったよ、辻邦生。
で、当然ここで、各色はそれぞれ何についてのストーリーか、の説明くらいしないことには
説得力というものがないのであるが、……何しろ昔の話なので忘れた……。
スペイン内戦についての聞き書き。
“私”(最後まで名前は明かされない)とエマニュエルの恋愛、前編。
宮部音吉という人物に関する資料集め。
“私”の少年から青年時代の話。この“私”とエマニュエルの“私”が同一人物だったかどうか……
で、菫いろが“私”とエマニュエルの恋愛の後編。今までの他の色のキーワードが色々出て来る。
うーん、あと2つ、なんだったかなー。
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一番印象が強いのは「夏の海の色」の表題作。
これはたしか中学か高校の国語の教科書に載ってたんだよな。
タケチュウが咲耶さんのことを「ああ。若い、きれいなひとさ」って言うんだけど、
そのシーンが想像上で明確に思い浮かんでいる。
「菫いろの挿話」にはタケチュウの息子がちらっと出てきたりしている。
本作が、わが愛の辻邦生の作品としてどこまで好きかというと、……実はまあそうでもないのだが、
やはり試みとしては面白いし、何よりこの仕事量を考えてるとね。
そして描かれていることは、相変わらず“人生の美しさ”。
しみじみと。やっぱり愛しいですね、辻邦生。
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文庫では全7巻。
七つの場所なんだから、本としても7冊というのが実はキレイだね。
まだ読んでないけど、辻邦生夫人による「たえず書く人 辻邦生と暮らして」という著作がある。
この夫婦は、おそらく幸せに生きたんだろうなと思える。数多い辻のエッセイに
妻の姿もさりげなく(しかし数多く)登場する。そのさりげなさがいい。
夫人はビザンティン美術の研究者でもある。辻邦生の著作をツブしたら、
彼女自身の著作も読んでみるつもり。
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