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< ベン・ハー (1959年版) >(DVD視聴)

222分の映画ではあるが、その長さを感じさせなかった。それはテンポ――
ストーリー、映像、音楽のバランスが良かったということだろう。

最初に音楽に、お。と思わせられる。
まあ序曲と間奏曲の部分はミケランジェロの「アダムの創造」の一部分をずっと映しているだけで、
それがあまりに長いので、故障か?と思わず早送りをしてしまったのだが。
始まって最初の10分位は「音楽がいいのではないか、この作品は」と思って見ていた。

次に目につくのはセット。古い映画だが、今から見るとむしろその古さが良いさじ加減になっていて、
美術のどこにもちゃちさが見当たらない。これは確実にCG、VFX以前の制作なので、
一体どうやったんだ、と驚嘆。マットペインティングは偉大だ。
むしろVFXよりも違和感ないですよ。

最初のシーン、ローマ軍団の行軍からもう見せますな。
この部分は人海戦術なんだろうか。それとも何か仕掛けがあるんだろうか。
衣装も手間かけてるよなー。金かかったろうなー……

アリウスの凱旋式なんかも美術的には相当に見どころなんだけれども、
メインはやはり戦車競走のシーン。
……ね、あれって、やっぱり本当に走らせてます?スタントマンがやっている部分もあると
メイキングで言ってはいたが、それにしたってスタントマンがやってるんですよね?
戦車から落ちるところは人間が落ちてるんですよね?
戦車に踏みつぶされるのは人形だとしても。
「指輪」くらいになると、馬が全速力で駆けて転倒するシーンはCGらしいのだが。
この作品で馬は実際に転んでるんですよね?
……コワイ。ほんと、何人人死にが……

これは見てわかりました。「スター・ウォーズ エピソード1」のポッドレースのシーンだと。
もうまるっきりそのまま作ってはる。でも50年後にVFXを駆使して作った作品よりも、
本作の方が格段に迫力がありました。
それはSWの方は、視覚効果だと思って見るせいももちろんあるんだけれども。
50年前に作られたものがパスティーシュされるというのもすごいことだなあ。

ベン・ハーの邸宅の微妙にエキゾチックな感じがユダヤなのかなーと。
あんまりユダヤについて知らんので、なんとも言えないけれども。
それとも実際よりも若干ローマ風に作ってあるのかなー。
それっぽく見せるためにあえて嘘をつかなければならない場合もありますからね。
日本の時代劇で言えば、昔の既婚女性の鉄漿とか。

役者は、エスターの役者が一番印象的だな。
チャールトン・ヘストンもスティーブン・ボイドももちろんいいのだが、
ハイヤ・ハラリートの神秘的な物静かさが一番見ていて美味しい部分だった。

メイキングを見て、脚本をだいぶ書き直しさせたというのを知り、さもありなんと思った。
これはねー、脚本はテガラですよ。これを台詞劇にしてしまったらもう全然だめだったろう。
台詞劇にするには長すぎる。
オーディションの時の別俳優のスクリーンテストの台本は実際とはずいぶん違ったものだったのだが、
多分このあたりが元々の脚本だろう。これで映画にならなくて本当に良かった。
饒舌な大作なんて、見るのが大変なだけじゃないですか。

ただし大事なところで不満な点が一点。

原作は副題が「キリストの物語」とあり、そちらではベン・ハーとキリストの物語が
どういう比重になっているのかわからないが、
少なくとも映画では、主旋律はベン・ハーの受難劇ですよね。で、伴奏がイエス・キリスト。
主旋律はブレもなく、バランスも良いし、伴奏は微かな重低音に留まっており、
その加減はなかなかだと思う。特にキリストをはっきり映さないところが素晴らしいね。

が、主旋律と伴奏がクロスする――同時に和音を奏でるところが一ヶ所だけあり、
それは十字架を背負って行くキリストをベン・ハー家のみなさんが見送るシーン、
つまりクライマックス部分なんだけど、ここが不満だった。
不協和音だと思いませんか。あまりにも関わり合いが微妙過ぎて、ぴったり来ない。

あれだけでレプラが治れば、あの時のエルサレムでは病人全回復ですよ。
もう少しベン・ハー一家とイエスの関わりを深めておかないとさー。
この辺りが不満。だからやはり、戦車競走がメインで、キリストとの話は、
もっとあっさりするならする、もっとはっきり描くなら描く、で
どっちかにして欲しかった。現行は微妙。ほんとに微妙。
でもまあこのくらいかなー。不満は。

名作でした。

※※※※※※※※※※※※

チャールトン・ヘストンによる音声解説を聞いた後の感想。

えー、ハイヤ・ハラリート、これ一作なの!勿体ないなー。
演技という演技をしなくても表情だけで十分語れる説得力がある顔なのに。

ヘストンが原作を高く買っていないところに笑った。
これは当時の通俗大衆小説なのか?わたしは……うん、そうだな、司馬遼太郎くらいを
イメージしていたのだが、そうでもないのか。
とすると、……歴史小説書きでわりと下調べがテキトーな作家……思いつかないや。
まあ宮尾登美子の「クレオパトラ」は大変ヒドかったので、あのくらいな感じ?
でも「赤毛のアン」だか「足ながおじさん」で、「ベン・ハー」の本を先生に取り上げられる
という話がちょこっと出て来るんだよね。人気はあった小説に違いない。

それにしても、DVDのカバー写真がシュワルツェネッガー似なので、
チャールトン・ヘストンがシュワルツェネッガーの顔で定着しそうだ……

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