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◇ 平出隆「鳥を探しに」

うぎゃ。……本の実物を見た途端、思わず呟く。
ページ数(660ページ)は事前に知っていたけど、二段組かい!しかもこんなに小さな活字で……
もう少し読む人のことを考えて欲しいものだ。

装丁がまず目を惹く。
表紙の絵は、素人っぽさのある、しかし優しい、気持ちのいい水彩画。
ひさぎの木だそうだ。分厚い背表紙には頼りなげな苅安。裏表紙にやまもも。
表紙を開くと紅花、そしてキツツキの絵が現れる。
こうした絵の過剰な使用は読む前から、何かいわくを感じさせる。

装画:平出種作  装幀:平出隆

うん、やはり。平出隆の家族の誰かがこの絵を描いたのだ。

※※※※※※※※※※※※

小説だと聞いていた。だがこれは小説なのか?
表紙の(ものすごく細かい活字、しかも金字なので読めない)「内容紹介」兼「詩」を引く。

   孤独な自然観察者にして翻訳者でもあった男の

   遺画稿と遺品の中から

   大いなる誘いの声を聴き取りながら育った私は

   いつからか、多くの《祖父たち》と出会う探索の旅程にあることに気づく。

   絶滅したとされる幻の鳥を求めるように、

   朝鮮海峡からベルリンへ、南北極地圏の自然へ、そして未知なる故郷へ。

   はるかな地平とささやかな呼吸とを組み合わせ、

   死者たちの語りと連携しながら、数々の時空の断層を踏破する

   類ない手法――コラージュによる長編 Ich-Roman

(……写すだけで疲れた。)

この部分、なにしろ読めないので今初めて読んだ。
ふーん、この技法はコラージュというのか。
わたしは断片の集合として読んだ。それは、つい先日読んだ高橋源一郎(と柴田元幸)の対談で、
“現代の詩人で、断片を集めて長大な作品を綴っている人もいる”というようなことを
言っていたのを思い出し、これがそれかもしれないな、と思ったから。
断片――1、2ページ毎に話が変わる。いくつかのまとまったストーリーを細分し、
それをかわるがわる積み重ねていく。文学的アップルパイ。

読みながらメモなどもしておかなかったので、それぞれのストーリーがどんなものだったか、
完全には覚えていない……
大きな流れとしては、

1.平出隆の祖父である種作が残した数々の翻訳、あるいは自然観察記。
2.平出隆自身の現状。当時彼はベルリンに滞在していた。
3.祖父、父に関する平出隆の回想。

の3つだと思う。それぞれがさらに細分化されるので、要素としては10以上になるだろう。

だが、細分化されたわりにはそれほど読みにくくはなかった。
わたしは小説でこれをやられるのはあまり好きではないのだが、
本作は細分化する必然性があったと思うので。
こういう方法じゃないと、種作が残した断片的な翻訳は作品にはなり得なかっただろうし、
単なる引用、紹介では活きてこない。

しかし正直、残り4分の1くらいは若干飽きたかな……
1のパートの内容が、わたしの興味を引かない博物学的な内容になったからでもある。
その前は北アメリカ大陸で金鉱を掘り、北極地方を旅し、エスキモーと交流する
冒険家(?)の話の翻訳だったのでわりあいに面白く読めた。
が、「南北極地圏内の動物相」という内容で、書きぶりが学者本だとあまり面白くない。

作品にするにあたって、1のパートの並べ方をおそらく平出隆は相当吟味しただろうが
むしろこういう小粒を「こんなのも遺しました」というバラエティの見本として、
前へ持って来た方が良かったかもしれないな。

厚みと文字の細かさのわりには楽しんで読めたけど、……またこういうのを出すのは
止めて欲しい気がする……。
何しろ厚みが5センチを超えますので、外読みは出来ないし、寝転がって読むのも相当苦労。
重さ的には幸いなことに「山尾悠子作品集成」ほどはないけれども。

鳥を探しに
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