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◇ ジョン・バンヴィル「コペルニクス博士」

最初は幻想の手法で書かれた伝記だと思ったが実は違った。
伝記の皮をかぶった幻想小説でした。

佐藤亜紀、至上の一冊だそうだ。
なので「どれだけ曲者なのか」と思いつつ読み始めたのだが……あれ?けっこう普通だ。
タイトルのコペルニクス博士が、まさかあのコペルニクスだとは思わなかった。
そのままやないか。あのコペルニクスだと思わせといて、実は全く別の話が
展開されるのだと思い込んでいたのに。

しかし読み進むうちに、一筋縄ではいかないことが分かって来る。
これ伝記じゃないじゃん!幻想小説だよ!

この本は、一応通常の伝記のように少年時代から老年、死までを網羅しているが、
実際はその辺のことはどうでもいいと言わんばかりにどっぷり幻想。
伯父が司教だったとか、どこだかの聖堂参事会員になったとか、
フェッラーラ大学で博士号をとったとか、一応彼の人生の軌跡らしき事項は述べられており、
それはそれで史実と合致してはいるんだろうけど、それを全く信用する気にならない。
少なくともコペルニクスについて知りたい人が読む本ではないな。

たしかに佐藤亜紀の作風と、近いと言えば近い。
彼女の方が若干ストーリーの流れがはっきりしているけど。

わたしもこの類は嫌いじゃない。内容が理解出来たかと問い詰められるとツライが、
まあ幻想は理解しなくてもいいと思っているしね。
でも第3章はちょっと読みづらかった。初登場の人物が突然出て来て、しかも一人称なんだもん。
その上「信用できない語り手」だし。

佐藤亜紀はジョン・バンヴィルをよほど好きなのか、彼の作品「バーチウッド」
(これもてっきり人の名前だと思っていたら、屋敷の名前だった……)に訳者として名を連ねている。
これはあれだな。多分「白い果実」方式。本業の訳者が訳したものを文体訳したんだろう。
これもいずれ読む。「コペルニクス博士」から類推するに、文体訳するには最適者であろう。
いや、今回のこの本の訳も良かったと思いますよ。労作。

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