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◇ 三雲岳斗「旧宮殿にて  ―15世紀末、ミラノ、レオナルドの愉悦―」

まとまり具合と上品さを評価するべきか。
物足りなさを難ずるべきか。

歴史上の人物を探偵役に持って来るのは、けっこうな人数の作家が試みている。
好きな方の作りなので、わたしもこれ系統はわりと読む。
でもそんなに名作と感じるものはありませんな。一作を除いては、今は思いつかない。
この類はさくさくと読み流すレベルのものが多くてあまり印象に残らない。

何か参考資料がないかと思い検索。これの外国編も作って頂きたいところですね。
日本物ももっといっぱいあるだろうなー。でもいざとなると思いつかないねえ。)

そもそも歴史上の人物を探偵役に据えるのは、どうなんでしょうねえ。
一般的に言えば失敗傾向を表している気がする。
上手い作家が愛着のある歴史上の人物をぜひ使いたくて、という場合は別だが、
それほど力量のある作家でない場合、単に地力のなさをその人物のネームバリューに
補ってもらっているという構造になりやすいからかもしれない。
後者の場合も、人物に対する偏愛が吉と出れば面白くなる可能性はあるけど、
それはそれでオタクが一般人のレベルに合わせて手加減出来ればの話だし。

本作の場合は、持ってきたのが何しろダ・ヴィンチですからねえ。
ハードル高いですよ。しかも舞台は当時だし。
歴史上の人物をキャラクターにする場合、タイムスリップかなんかで現代に連れて来てしまう
手もあるわけだが、それはやはり変化球で若干ズルイ気がする。必然性がなくなる。
ただ、舞台を当時にすると相当に調べ物は増えますよね。その労力と引き合うかどうか。

本作は危ぶみながら読んで、でも読後感はまあまあ。
あまり踏み込まず、上手にまとめている感じ。調べましたよ感とか、ひけらかし感とかが
なかったという意味では上品と言ってもいいかもしれない。

でもなあ……。良く言えば上手くまとめているけれども、悪く言えば「薄い」わけで……。
この程度のキャラクターにするのにダ・ヴィンチを持ってくる必要があったかなあ。
ダ・ヴィンチにするなら。もっとがっつり話を作って欲しいところだ。
わたしは読むまで、これが短編集だとは知らなかったから、
「え?短編にわざわざ?」という肩すかし感はあった。長編があって続編でこの短編なら
まあ納得だが、短編集1冊のためにダ・ヴィンチに登場願うのは……。
登場願うほどの密度だったかは疑問。

文句なく良かったのは装丁。
表紙の写真(?)は少しフェルメールを思わせるような場面。これ好き。
……うーん。でも今じっくり見ると字配り部分は全然ダメな感じですが。
何でこうした、泉沢光雄(←装丁)?

旧宮殿
にて

ってレイアウト的に変じゃない?しかもせっかく写真が美しいのに、
下3分の1の真っ白なところには字を置かず、なぜ写真部分に字を詰め込む。

ただ短編1作毎についた小表紙(っていう言い方はしないか)は素敵。
ミラノの大聖堂のファサードを垂直に、歪みなく、しかも狭い範囲で部分的に切り取っている。
これはちょっと洒落てますよ。

今ぱらぱらとページをめくって思ったが、謎解き部分はダ・ヴィンチに相応しいと言っていいな。
「愛だけが思い出させる」の暗号はわりと好きだったし、
カメラ・オブスキュラもちょこちょこ出てくるし。
ということは、薄いのは骨部分ではなくキャラクターか。
ダ・ヴィンチが美しくて諧謔性の強い男というだけにしか見えないから、
そしてルドヴィーゴ・スフォルツァがいいように鼻面を引き回されるだけの男にしか
書かれてないから不満なのかも。
だからやっぱりまず長編をがっつり書いて、キャラクターを立たせるべきだったと……

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※後日、実際に長編が先に出ていることに気づき「聖遺の天使」を読んでみた。
……が、人物が薄いという欠点は解消されず。ミステリの仕組みは(若干無理めにせよ)まあまあかと
思われるのだが。もっと筆力が欲しいところだ。旨みが足りない。

聖遺の天使
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ちなみに「歴史上の人物が探偵役で成功している作品」としてわたしが考えるのは、
森雅裕の「モーツァルトは子守唄を歌わない」です。面白いぜー。
魔夜峰央の表紙イラストが、良いんだけど(あまりギャグ味が強くて)若干痛し痒しだなあ。
この作品にアクセントをつけるという意味では魔夜峰央、いいんだけど、
彼のイラストが語っているのは作品のユーモア部分だけだからさ。

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