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◇ 夏目漱石「草枕」

「草枕」で有名な文章と言えば、

   智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。
   とかくに人の世は住みにくい。

――だが、それは脇に置いといて、この作品には頷かれるところが多かった。
夏目漱石を好きなのは、まさに然り、と言いたい、自分の言いたいことを言ってくれている、
と思える文章だからかもしれない。

芸術論と言っていいのか、そこまでの大層なことを言っているのではないのか、
判然としないけれども、作品中の芸術論めいた部分を面白く読んだ。
「悲しみを抽象化する」というのは自分が若かりし頃実行していたことだが、
漱石が同じことを違う方向から考えていたのには、さてこそとも思ったし、
なるほどこの方向か、とその違いも面白かった。

漱石のひねくれ具合とか、ロマンティストぶりとか、厭世感とか、ユーモア加減とかが
非常に快適で好きだ。
あまりまともなことばかり書かれても仰る通りでございますとしか言えないし
(鴎外か?――でも鴎外は小説では、あまりむきつけの論は書かない?)
だからと言ってべたべためそめそされてもイヤだし、
(太宰か?まあ太宰は高校の頃に読んで、うへーと思って以来だけれども。)
ただひたむきに人生を語られても窮屈だし。(これはいっぱいいそうだ……)
漱石はいいですね。お友達になるとしたら漱石だ。――うん、ま、若干めんどくさそうだけれども。

しかし好みとしては、「草枕」よりはもう少しちゃんと物語していた方が好きかな。
「三四郎」くらい。「坊っちゃん」ほどではなくていい。「猫」も好き。
「虞美人草」や「明暗」となると、ちょっと敬遠。
でも実は一番好きなのは、「倫敦塔」とか「夢十夜」とかの浪漫的小品なんだよね。
漱石さん、あなたけっこうロマンティストじゃないですか、とからかってみたくなる。

   菫程な小さき人に生れたし

ロマンティストじゃなきゃ、こんな句は作らないさね。
どうもわたしは武骨なおっさんのそういった側面にヨワイらしい。
佐々木信綱とかもたまに可愛い歌を作ってるんだよなー。

草枕 (新潮文庫)
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