この本における赤瀬川さんのコメントは、刺身のツマ程度の存在感なので特に言うことなし。
(ツマも美味しいですけどね)
ルソーの絵について、ほんのちょっと。
いっつも思うんですけど。
ルソーの「眠れるジプシー女」って凄くないですか。
幻想と静寂が画面に立ちこめている。
単なる画集の絵でしかないのに、こちらに匂ってきそうな濃厚な静寂。
砂漠の涼しい夜の風。香ばしいようなライオンの体臭。
ライオンは足音をしのばせて、ジプシー女の夢を覚まさないようにその眠りを守る。
……1897年にこんな詩情あふるる絵を描く人が、
どうして1903年に「赤ちゃん、おめでとう!」なんて絵を描いてるんだ。
これってどうみても巨大化したリアルキューピーではないか。
しかも巨大化した分、怪獣になっているぞ。
これが、制作年代が逆ならまだわかる。その間に何かに開眼したんだろうと思えるから。
だがむしろこれは……どんどん素人っぽくなっていってないか?
この人の人物像はなんといったらいいのか、……実に紙人形ですな。
こないだテレビで、各名画をパノラマ化するアーティスト(……)が映っていたが、
「ルソーの絵は、僕のために描いておいてくれたんじゃないかと思うほど作りやすかった」
そうだもの。
ちなみにその際の素材は「フットボールに興ずる人たち」。相変わらず人物のデッサンは
おかしいわ、顔は双子のように同じだわ、走っているのに動きが全くないわ……
この静止性がルソーの特徴ではあるんですけどね。
妙に不自然な。だるまさんがころんだ、で止まっているような静止。
こちらが目を離したすきにちょっとポーズを変えようと、各人物が狙っているような。
油断出来ません。
肖像画のぎこちなさは永遠に素人っぽいけど、しかし密林シリーズはちょっとプロっぽい。
ジャングルの描写が。うまくデザイン化されて、高温多湿のウィリアム・モリスな感じ。
でもそこに人物が出てくると、あっという間にぎこちなさで覆われてしまうのだが。
しかし密林シリーズにも凄い作品はあって、それは「女蛇使い」。
ここに漂う幻想性と言ったら……。名作だよ。参りました!と頭を下げたくなるほどの名作。
この名作度と、その他の素人度の乖離がどーも納得出来ないのだ~。
もしかして2人いたんじゃないのか、ルソー。
月の光を描くのが妙に上手い画家だった。
変な画家です、ルソーは。またそれが面白いんだけどね。
講談社
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この画集は62ページしかなくて、たっぷり満腹!というものではないけど、
絵を見ようと思ったらなかなかいい出来の本ではないかと思う。
薄いので気軽に開いて見られるし、赤瀬川さんも別に解説をしているわけではないので、
美術史的な知識が邪魔にならない。
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