松永久秀主役。
松永久秀と斎藤道三は実はイスラム暗殺教団の流れを汲む兄弟弟子だった。
というのが基本設定。
やっぱりさー。
もうどんだけ信長に惚れてんねん!って感じだよね。いや、作者が。
「信長あるいは戴冠せる両性具有者」「聚楽 太閤の錬金窟」ときて、これ。
「信長~」は当然信長の話だが、「聚楽」でも信長が妙に出張って来てるし、
今回のこれは特に信長がかっこいいんだわ。系統的には塩野七生が書く
チェーザレ・ボルジア的かっこよさ。冷酷で美しく、強い。
「安徳天皇漂海記」でようやく信長から離れたとはいえ、この人は、
多分ずっと信長のことを書き続けていくんだろうなあ。
この作品は珍しくノベルスになっている。しかも単行本で出してからノベルスになるのって、
わりに珍しくない?そうでもないのか?
「この人のマニアな作風で、なんでノベルス……」と前々から疑問に思っていたのだが、
読んで得心した。この作品は作り方がわりに素直。
道具立ては相変わらずギラギラと派手。でもそれが付け合わせに留まっているので、
そんなに咀嚼しなくても食べられるというか。
何より、この作品では珍しく主役の心情が素直に書かれている。
今までは信長、秀次、実朝と、異形の精神を周囲の視点人物が叙述するという形だったのが、
この作品は、珍しく視点人物≒主役だからね。話に入りやすかろう。
もっとも、深読みすれば久秀を素直に主役といっていいもんか、疑問が残るが……
傀儡(くぐつ)の存在が魅力的だった。傀儡の台詞の書き方が上手いと思ったなー。
得体のしれない存在なだけに、ともすればブレがちのはずだが、
捉えどころのなさ、久秀からの距離が最後まで絶妙な気がした。
ヴィジュアル的にはもう少し書き込んでも良かったんではないかとは思う。
だがしかし!すごく文句を言いたいところがある。
光秀の変心の部分だ!あそこはもう少しこってりと書くところじゃないのか!
こってり書くのは得意だろう、宇月原よ!!
ページ数が足りなかった。ここまで630ページ分も書いて来たんだから、
あと10ページや20ページ増えたってコワイものなんかあるかい。
あそこをあんなにあっさりと終わらせては、光秀のその後の行動が矮小になってしまうよ。
道具立てはいいと思うんだけどなあ……。なんであんなにさくさくと書き飛ばしたかね?
この作者は(大好きだとは言えないにしても)興味深い。ずっと見て行きたい作家である。
しかし寡作。ひじょーに寡作。
あと1冊、最近刊の「廃帝綺譚」という短編集が残っているとはいえ、
これが3年前の発行……。次に新作が読めるのはいつのことやら。
わたしが興味をもって見守ろうというする作家は、なんでこう寡作かねえ。
池上永一しかり、山尾悠子しかり、梨木香歩しかり……
まあ、池澤夏樹と藤森照信は寡作とは言えないけど。
実はこの本、読んで眠ると悪夢を見るという、そういう意味ではすごく疲れる本でした。
取り扱い注意。とはオオゲサか。
注:今まで読んで来た本の他にもう1冊「天王船」という短編集があった。
これは「黎明~」をノベルスにした時に、各巻に1編ずつ番外編の短編を書きおろしたそうなのだが、
それを4巻分集めて短編集にしたものらしい。
その短編を読むためにノベルスを借りようかどうしようか考えていたところだったので、
気づいて良かった。「天王船」を借りれば解決。
コメント