トロワイヤは、多分大学時代に「イヴァン雷帝」を買っている。
この人てっきり歴史学者だと思っていた。小説家なんですな。
当時はわりと難しく感じた気がするが、今作は面白かった。
というより、ピョートル大帝という人物が異常に面白いのだ!
トロワイヤの書いたものがどうだという前に、このピョートルという人、ほんとものすごいよ。
ガーッと根こそぎにして、ロシアの伝統を(良い意味でも悪い意味でも)破壊した。
だが、彼の通った後はペンペン草も生えない……というわけではなく、
根こそぎついでに改革も相当やった人らしい。
厳密な意味ではないが、日本で言えば織田信長のような存在かな。
ただし、野蛮で破天荒。
礼儀作法は(その気になれば多少まともに振る舞えるらしいが)なっておらず、
拷問は自ら行うわ、人の話(忠告、献策)はめったに聞かないわ、自分が思ったことはあくまで貫徹。
なにしろブルドーザーなので、壁があったら壁に梯子をかけるのではなく、
当然回り道するわけでもなく、壁をあっさりたたき壊して先へ進むのである。
また、ある種の超人――体力オバケみたいな面もあったらしく、宴会の描写なんか読んでると
まるで地獄のようだ……とアルコールに弱いわたしは思う。
酒が飲めないということを頭から認めなかったようだからね。
老齢を理由に杯を断った老貴族に、漏斗をくわえさせて酒を流し込んだとか。
宴会のしっちゃかめっちゃかぶりはヒドイ。多分わたしはその場所にいただけで倒れる。
ある程度陽性な性質であったらしいことは救いだが……
でも、それが単に陽性だったのか、精神的な問題による狂騒だったのかは微妙なところ。
トロワイヤによれば、彼の幼少期に起こったクーデターで、兵士が目の前で惨殺されるところを
見ていたらしく、それが性格形成に悪影響を与えた点も考えられるとのこと。
皇帝のくせに、軍隊では自分を下士官の地位に置いていた。
お忍びで街歩きなんかもよくやった。
“二重生活志向”――どうもその辺に精神的なトラウマがあるようだ。
面白いのは、彼が実に現実志向、技術志向だったこと。
国内でも国外でも、技術的なことには大変興味を持っている。
皇帝自ら船大工としての腕を磨き――なにしろ皇帝になってからまでお忍びで海外技術研修に
出かけてしまう。いや、普通はやらんやろ。
抜歯が好きで、自ら周りの臣下の歯を抜きまくったとか。
なんやら他にも色々。手先も器用で、体力もあったから、かなりいい職人だったらしいんだ。
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どうもわたしの感想もピョートル的に支離滅裂になっているが、
面白い人物であることは間違いない。
トロワイヤの書き方にスピード感があるので、ますますピョートルのものすごさが引き立つ。
お薦め。とは言っても、450ページ超だし、語り口は解説文寄りなので、
わたしの読書スピードでも4日くらいかかったのかな。短時間でさくさく、という本ではない。
この本の前に、これも読んだ。
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これもまあまあ面白かったですよ。最初の方はちょっと地雷臭がするんだけど。
ピョートル大帝の奥さんであるエカテリーナ1世も、なかなか面白い人生。
これも小説というより中公新書で出している「物語 ○○の歴史」的な語り口なので、
そのつもりで読んで吉。
トロワイヤは「女帝エカテリーナ」という本も書いている。近いうち読もう。
このエカテリーナは2世の方で、この方は大変まともなロシアの皇帝。
わりと好きだな。テレビで特番をやっていたこともあるし、
この本も面白かったからね。
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