総じて言えばなかなか。入場料分の見ごたえはあった。
人が多かったわりにそれなりに集中して見て回れたのは、展示方法が良かったからでしょう。
展示数に比してはもう少々面積が欲しかったところだろうけど。
ただ「これが好き!」という出会いはなかったかな。感動まではしなかった。
まず何が印象的だったかというと、「雄羊の頭」。
第2室に入った途端、部屋の中央にどん!とあるのがそれなので……ううっ。という迫力。
どのくらいの大きさと例えればいいのか、現場でも散々悩んできたんだけど、
良い例えが思いつかない。一抱えというよりははるかに大きいし。
……コタツ。いや、コタツでは量感が全く伝わらないな。
愚直なほど写実であるエジプト美術のこと、この羊もデフォルメなどはなく、
そのまんま羊だが、やはりこの大きさがあると妙な存在感を獲得する。石だし。
あ、そうそう、イメージは「もののけ姫」のシシ神様の首。もっと大きいけど。
彫像関係はやはり佳品が多かった。
ポスターにもなっている「アメン神とツタンカーメン王の像」。
これもまあ。ほぼ真横から見た時の姿が好きだったな。おそらくライティングの関係だと思う。
ただ「あのツタンカーメン!」と思えるほど、黄金のマスクの顔と似通っているわけでは
ないので、言われて初めて「へー、ツタンカーメンなのかー」と思う程度。
ちょっと薄味。
「イビの石製人型棺の蓋」は美しい造型だった。頬の傷が惜しい……。
説明によれば、末期王朝時代の彫刻はこういう類の、簡素で鋭い表現の彫刻が好まれたそうだ。
このくらいになるともう相当に洗練されています。
エジプト美術は古拙の味が実は王道だろうとは思うが、こういうのも嫌いではない。
古拙という意味では「人型石棺の蓋」(36番)が良かった。
まだ技術がそれほどではなく、顔も左右非対称でゆがんでいるのだが、
唇などは今にも語り始めそう。美人ではないが、まなざしがいい。
ずっと見ていると、いや、美人だったかも……と思えてくる魅力があった。
ステラと呼ばれる石碑――石板と言った方がイメージに近いか――もみな良かった。
彩色されているのも真白なのも。
「アブイフウのステラ」というのが良かったはずなのだが、自分で書いた覚書の字が読めず、
どういうものだったか思い出せない……
「イプイのステラ」は正統的に良い。白のレリーフはやはり基本だ。
「ナキィの葬送用ステラ」は彩色で派手。人物が4頭身くらいなので、マンガっぽくて面白い。
「タバクエンコンスの人型棺」女性の歌い手?だったらしい。
稠密に描かれた文字と絵のバランスが完成されていると感じる。
耳なし芳一的に木製の棺全体に、びっしりと描かれ・書かれている。
絵ならわかるが、こういうものに美しさを感じるのはどういうことなのかと思うね。
文字は、根本的に美しい姿をしているということなのか。
エジプトは絵文字。美しい。マヤも絵文字。美しい。漢字。象形文字。美しい。
アラビア文字。とても文字とは思えないほどデザイン化されている。美しい。
仮名文字。……よくわからないけど美しい。でもカタカナはあまり美しいと思えないんだよなあ。
アルファベット。うーん、微妙か。書体によっては美しいと感じるが……。
楔形文字。うーん。美しいってのとはちょっと違う気が。
ハングル文字。うーん。ちょっと作為が前面に出過ぎかなあ。
クレタ文字。面白いので美しい。トンパ文字。これは可愛い。美しい。
「人型棺の顔」(77番)。これは棺の顔の部分だけが残った、異様な姿。
本来はこれだけが残るべきではないのだから、比べるべきではないのかもしれないけれど、
能面を思い出した。ある種の生命感が宿っていた。ちょっとコワイ。
印象に残ったものはこんなところ。
ただ、エジプトものをヨーロッパに持って行っちゃうと、妙に上品――というか、
ヴァイタルが抜かれてしまうというか、脂っ気がなくなるような気がする。
いや、現地で見たことはありませんが。
それともヨーロッパ人の好みに従って収集すると、ある一定のラインにまとまるということなのか?
そういうことは有り得ると思うけどね。日本美術で考えてみても、外人のチョイスは
日本美術の王道とは微妙に違う気がする。
そこがある意味こっちからすれば新鮮ではあるのだが、「違う」と感じることも。
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