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◇ 篠田達明「烏鷺寺異聞」

読み終わってものすごく疑問。
……著者は何が書きたくて、誰に読んで欲しくてこの本を書いたのだ?

烏鷺寺異聞―式部少納言碁盤勝負
篠田 達明
徳間書店
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だいたい導入部からして地雷の雰囲気満々。
ぎょっとするほど稚拙な“聞いたか坊主”で紫式部と清少納言の説明をされてもさー……

むらさきしきぶがげんじものがたりをかいたこと、
なんでむらさきしきぶとよばれているかということ、
なんでこんかいいごしょうぶをすることになったかということ、
……絵に描いたような聞いたか坊主。
その部分読みなおして、頭がぐらぐらしてきたので、みんな平仮名になってしまいました。

紫式部や清少納言の説明は、日本史が苦手な中学生くらいなら必要かもしれないが、
こういうタイトルの本を手に取った大人には、ほとんど不要な部分じゃないか。
誰に読ませようとしているのだ、と最初に思ったのはここ。

紫式部と清少納言の棋風の違いから、「胸裂き式部」「殺生納言」と呼ばれている、
なんてのは、アホなダジャレ以外の何ものでもないし。
(しかもこの綽名がその後に活かされるわけでも何でもない。)
わたしがこの本を読んだのは、「囲碁の技が面白い」という一般人の感想を読んだからなのだが、
単に勝手な名前をつけているだけで、技の実体はほとんど記述がない。

ちなみに、こんなのが技の名前。
「忍ぶ草の恋」「這い松の冬籠(ふゆごもり)」「鴎の墜落」「烏の大崩し」「雀の小崩し」
「寝たきり鷲」「狂乱家鴨」「女郎花の散策」……。

読んでも面白い囲碁の技とはどんなものか、それが小説で上手く書けたら、
(バランスの悪いマニアックな小説にはなるだろうけど)相当に快挙だ、
という興味で読んだのに、こんなんでは読む意味がないではないか!

この本の一応の要諦は……

以下ネタバレですが、はっきり言って、ネタバレしたからどうってほどのことはない。
でも多分この本の唯一意味があるところと言えば、このドンデンの部分だけだ。
……しかしそれがドンデンとして良質かというと、決してそうは思えないから
ダメダメだと思うんだよなあ……。

……一応の要諦は、

実は敵対する紫式部と清少納言は仲が良く、
囲碁五番勝負を(両陣営の面子にかけて)真剣に争っていると見せかけて、
盤上に道長に対する侮蔑の言葉を描き出していたのだ!

ということなのですが、正直、だから何?って感じです。
そういう話にしたいんだったら、最低限、棋譜で沐猴而冠を図示して見せろよ。
というか、本来図示は邪道だと思うけど、実際にそう打てるというリアリティに
支えられた話じゃないと、ドンデンの意味がないだろうと言いたいのだ。
「猴」って盤上で書いてみなさい。書けるか?
嘘をつくなら真実で支えろ。嘘は真実という絵の具で描き出してこそ生きる。
いい加減な絵の具を使ったいい加減な嘘では、フィクションの意味が全くない。

誰に読ませようとしてるのかなあ。
歴史好き――紫式部と清少納言との対決部分に惹かれて読んでみた読者は、
中学生向けの解説付き、そして彼女たちの人物が全く書けてない上に、
なぜ紫式部が道長を侮蔑しなければならないのか、理由がないことに納得出来ないだろう。

囲碁好きは……この程度の囲碁度では全然納得出来なくない?
囲碁を打てないわたしでも全然です。
「ヒカルの碁」は良質の囲碁マンガだが、それを基準にすると囲碁度は1%くらいですかね。
この小説は単に「盤上で文字を書く」という思い付きだけで書いてしまった気がする。
しかもその思いつきを、盛り上げるとか固めるとかする方法を知らないままで。

この人は本業お医者さんらしい。
小説以外の著作もいくらかあり、そのなかにはわりと面白そうなタイトルもあるんだけれど、
最初に読んだのがコレだったのが不幸だな。やめときます。
出来れば本業に勤しんでいただきたい。

……もしかして「篠田」はわたしにとって地雷なのか?
(篠田秀幸 篠田達明、篠田真由美)
まあ篠田真由美はブツブツ言いつつ「建築探偵シリーズ」完結までは何とか読むだろうし、
篠田と言えばこの人を抜かしちゃいけないんだろう
篠田節子を読んでいないのだから、そうは言えないけどね。

いやはや。

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