正直、1冊の本に要素を詰め込みすぎ。
染色関連の書き方は少々付け焼刃と感じたし、
クルド人までは持って来なくて良かったと思うなあ。
あとラストがけっこうランボー。そこまではしなくてもいい。そこまでして欲しくない。
というようなことは思うが、物語書きとしての力量は感じる。
もうこれも10年前の本だけれどもね。
わたしはこの人のデビュー作を読んだ後、わりとすぐ2作目の「丹生都比売」を読んだんだけど、
それはいまいちだったんだよね。それから「裏庭」を買って読んで、それもあまり
好きじゃなかった。なので印象良くなくて、ずっと読んでなかったんだよ。
この「からくりからくさ」が作者の5作目で、デビューから5年。
これからかもしれないなあ。「裏庭」の出版から2年半空いてる。
その間に本当に書きたいことを見定めたんだろう。
わたしはこの間読んだ「沼地のある森を抜けて」を高く評価したけれど、
この作品はそれに直接繋がるような系譜だ。例えて言えば宮崎駿の「風の谷のナウシカ」と
「もののけ姫」の関係のような。この本には直接の続編らしき「りかさん」もあるけどね。
雰囲気はずいぶん違うけれど、この人も池上永一みたいな憑依系なのかな。
考えて作った話ではないような……。いや、考えている部分も多くありそうな気はするけど、
雰囲気に不思議な静謐さが漂うので、頭だけではないものも感じるんだよね。
この後、「春になったら苺を摘みに」というエッセイを読んだ。
作品としてのエッセイだと感じた。久々だ。
そして、こういう経験があったから「村田エフェンディ滞土録」が書かれたんだな、と納得。
道理でイスタンブールの匂いが希薄な(気がする)作品になっているわけだ。
あれは本当は、英国の片田舎を舞台にして書かれるべきだったんだ。
なんかもう、謝っちゃおうかなあ、という気がして来た。
謝るのとは違うか。頭を下げる。脱帽する。シャッポを脱ぐ。
この静謐さは、梨木香歩独特のものだ。
この佇まい。……プロだなあと。いい書き手だなあと。
そんなに、なんていうのか、内容が人生哲学的に深いとかいうのではないけれど、
それと書き手としての力量はまた違う。静謐で真摯。
いい書き手だ、と頭を下げる気になった。
見つめている。その視線が、透明で率直。
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