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◇ 篠山紀信「定本 作家の仕事場」

ちょっと前に読んだ「作家のインデックス」と、一見近い内容ではある。
篠山紀信が作家を撮って、それを134人まとめた本だから。
しかし両者は正確にはだいぶ違うものた。
「インデックス」の方は情報、「仕事場」の方は表現。

「仕事場」は1人4ページ構成になっている。
1ページ目はその作家の紹介文。これを書くのはその作家と親交のある、多くは作家で、
手紙だったり、けっこう格式ばった解説だったり、思い出話だったりする。
2ページ目は1枚の写真で、3・4ページは見開きの1枚写真。
つまり1人の作家につき写真は2枚しかない。

2ページ目の写真はポートレート風に撮ったものが多い。見開きの方は仕事場にいる写真が多い。
それが逆転することもあるし、そもそも仕事場が出てこない人もいるが。
(散歩していたり、庭に出ていたり、いきつけの店のカウンターに座っていたり……)

撮ったのが篠山紀信、という先入観があってそう思うのかもしれないけど、
「仕事場」の写真は一枚の力が強い。光を上手く使って作品として仕上げている。
「インデックス」は一枚の写真としての力はそうでもない。あくまで写されたもの、
どこをどのように切り取るかを主眼においている。

まあ、「インデックス」を撮った人は、普段は物を撮っている人だったようだ。
物を撮るのと人を撮るのではだいぶ違いますからね。
双方、どちらもそれはそれでいいと思う。「インデックス」は写っているものの情報を楽しんだし、
「仕事場」は、ああ、なんていい顔、という部分を楽しんだ。

感心するほど良かったのはそれほど多くはないけどね。
しかし大江健三郎のポートレートは、うわ、と思う出来。
わたしはノーベル賞を取った頃以降のイメージしかないし、
そうなると60歳だから、それだけでも違ってしまうんだけど、
篠山紀信が撮ったこの時はまだ50歳前。とてもいい笑顔をしているんだなあ。
いつも世の中の苦しみを見ている、というような顔しか見たことない。
この人が、こんな風に笑うこともあるんだ。

1ページ目の紹介文もなかなか読みでがあるんだよ。
何しろほとんどは同じ作家仲間が(しかも個人的なお友達が)書いているから楽しい。
すごく凝って書いている人もいれば、けっこう書きなぐった感じの人もいる。
双方で紹介文を書きあっている人もいれば、全然違う畑の人が書いている場合もある。
(梅原猛の紹介文を壇ふみが書いているのは、一体どういう接点があったのか……)
へー、こんな交友関係が、というのを見るのも面白い。

「仕事場」も長い連載のもので、「インデックス」もそうだけど、
総じて「仕事場」の方が古いようだ。写真が若いからねえ。
現物を比べたわけじゃないけれども、両者で同じものを同じように撮った写真は少ない。
同じ書斎だ、と気づくものもあったけど、印象はだいぶ違ったり。
まあ、撮った時の散らかり具合とかあるだろうが。

わたしとしては辻邦生がないのがハラダタシイけどね。
見たかったなー、書斎とか。

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