出版が国書刊行会。1冊の全集。そして惹句もなんだかそれっぽかったから、
山尾悠子並みの出会いを期待していた。山尾悠子の衝撃は凄かったから。
(あまり凄かったのでブログに読書感想を書き始めてしまったくらいだ。)
だが、これは期待外れだったなあ。
読む直前に著者の写真を見てしまったことが悪かったのか……
若い頃(三十数年前)の写真を見てふきだしてしまった。
あまりにもハマりすぎているんです。
本棚の前でポーズをとる痩身の若い男。長髪で、片目を隠している。
なぜか革ジャン。いや、ツナギか?すごく体にピッタリしたヤツ。
本棚の上には赤いバラの花瓶。白黒写真だけど自信を持って断言する。赤いバラだ。
そして著者近影。……これはこれで、別な意味で苦笑。
どうもこの人はあの路線のまま年を重ねたようで。黒いコートにブーツ、サングラス。
年相応に後退したらしき頭髪。その上に多分ベレー帽を被っている。
わたしは名前から、意外に穏やかなロマンスグレイ系のおじさんを想像していたので、
ギャップが……。澁澤龍彦の次くらいに「いかにも」な感じかな。
(でも冷静に考えてみると、別に渋澤は外見はいかにもってほどじゃないんだよね。
あのサングラスがインパクトありすぎなんだ。)
あまりにもそれっぽい人って、何か可笑しくないですか。
いや、当然彼らにとっては衣装も大事なトータルコーディネイトの一つ、
自己表現なんだろうから、こういう衣装になるのはむしろ当然なのかもしれないけれど。
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初期短編は良かったんだ。
「ああ、やっぱりこういう風な話を書くのね」と思いつつ。
こういう話、というのは美少年や美青年が出てきて綺羅な世界……系の。
わたしは正直言ってコレ系は好きじゃないんだけども、幻想小説としてはわりあいきれいな話だし、
それほど不満は持たずに読んでいた。
が、延々500ページ、ソレばっかりだと食傷する。
それほどべったりした書き方ではなく。まあそれなりに節度を持った書き方だと
言えないこともないんだけれど。
でもシュミにどっぷりハマった作品て、プロっぽくないと思うんだ。
いや、求められてるのがソレ系なんだからむしろプロなのかもしれないが……
使われた語句やイメージが絢爛で、それが巧さだとしても、シュミへの耽溺具合が
わたしはアマチュアだと感じる。もうちっと距離をとって書いてもいい。
ガリヴァー旅行記、ハムレット、道成寺などを使った作品もある。
これはイヤだったなあ。れっきとした古典に、シュミの衣をまとわせるのは止めてほしい。
それは甘えではないのか。……ああそうか、パスティーシュ。
パスティーシュはわたしには乗り越えられない壁なのだ。
読むこと自体は苦痛ではないけど、目が滑る。自分でも驚くべきことに、
前日まで読んだ話の内容が全く頭に残ってないの!何度冒頭から読み返したことか。
(でもこれは、たしか山尾悠子も同じだった気がする。これ系統はそんなもんか?)
話を楽しむのではなく、文章を楽しむというのも立派な読書の楽しみだとは思うが、
文章のみ、という点においても少々物足りなく感じた。
旧かなづかいはなだらかに使えていると思うけど。
うーん、やっぱりどうも、「シュミに走りすぎ……」と冷たく見てしまったことは否めないな。
この人は、小説を書いていたのは若い頃で、他にはエッセイとかアンソロジストとして
活動しているそうだから、小説は多かれ少なかれ若気の至りということはあるか?
今度はエッセイを読んでみよう。
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