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◇ ホセ・カルロス・ソモサ「ZigZag 上下」

前に読んだこの人の作品「イデアの洞窟」もそうなんだけど、
実は読む前はあんまり面白そうなニオイがしないんだよね。タイトルのせいかな。
読んで「ありゃ、けっこう面白いじゃん」というのが前回と今回、共通の読後感。

前回はメタミステリ、今回はSFでした。
雰囲気はあまり似てないけど、作りこみは似ている。ただその作りこみ、あまり細かくない。
普通こういう話なら、もっとマニアックになりそうなもんだと思うが……
そこが気楽に面白く読めるポイントなのかも。

Zig Zag 上巻
Zig Zag 上巻

posted with amazlet at 08.07.27
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ミステリと紹介されているけど……SFでしょ?
ずーっと前に「パラサイト・イブ」が流行った頃、SF作家だかSF好きの編集者だかが、
「SFというと売れないから理系ホラーと銘打たれる。これは絶対SFでしょう。
どうしてそこまでSFを避けるのか」と拗ねていた記憶がある。やはりSFは売れないんですかね。

特に歴史サスペンスでは全然!全く!ないと思うよ。この文を書いた人は読んだのか、これを。
タイムトラベル(厳密にはそうではないけど)の話だからそりゃ多少は歴史の話が出てくるけど、
歴史サスペンスというのは、その歴史がどうなったかという部分が大事なのではないか。
この話はSFホラーですな。といってもホラー嫌いのわたしが読めるくらいだから、
ホラー部分はあんまり怖くないが。

この恐怖の正体は、というのを冒頭から下巻の半ばくらいまでひっぱってひっぱって、
「こんなにひっぱって“なーんだ”ってことにならない?」と
他人ごとながら心配したくらいなんだけど、まあ何とか。
ひっぱった分に対応するほど、どーん!という種明かしではなかったが、
書き方が上手いのかあまり不満を持たずにすむ。
それと同じくらいに最後の収束はちょっと弱いのだけれども、少なくともわたしは
それほど不満は持たなかった。でもきっちり解決してすっきり!という結末じゃないと
納得出来ない人はいるんじゃないかな。

この本で一番読んで得したと思えた部分は、「ひも理論」を素人にもわかるように一言で
説明してくれた部分。そうか、わかった!!……と思えたのでもうこれで「ああ、ひも理論ね、
それはね……」と説明出来ちゃうぞ。
いや、それは嘘ですが。でも紙ナプキンを使った例えはとてもわかりやすく、鮮やかだった。
ひも理論は多少なりとも、今後のストーリー展開に関わってくる。こういう物理を
まぶしたような話は加減が難しいと思うのだけど、わたしのような完全文系にも
拒否反応が起きない程度でうまくまとめているよ。

いいエンタメ作品。

……ただ、変換ミスの誤植は少し多めだったかな。
一番笑ったのが、バレンテという登場人物の名前が「馬連て」となっていた部分。
数秒わけがわからなかった。わたしが言いたいよ、「馬連てって!」と。

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