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◇ 山本兼一「白鷹伝」

前回読んだ「火天の城」よりこちらの方が面白かった。
前回は城普請、今回は鷹飼いについてじっくり書いてある。
わたしは基本、建築が好きなので、城普請も面白かったが、
鷹飼いの場合は鷹そのものもキャラクターとして魅力的だから、こちらに軍配を上げる。

よく調べて、よく消化して、よく書いた。という感じ。
何度も言っているけど、調べて書くのは当たり前。でもその知識を上手く物語に乗せられるかどうかは、
書き手の力量ですよ。この作品がどういう話かと訊かれたら、
なによりもまず「鷹飼いについての本」と言うしかないというのに、ちゃんと物語になっている。
……ま、鷹飼いに全く興味がなければ小説として読むのは難しいだろうけど。

鷹の捕らえ方。餌のやり方。馴らし方。狩りの仕方。知識的な部分をみな面白く読んだ。
今回は生身の人間から思う存分取材が出来たようで、詳しかったし血も通ってた感じがしたな。
相変わらず骨の小説ではあるけれど、ちょっと肉部分もついた。

白鷹が魅力的だった。はっきり言って人間よりも魅力的。
この人の作品はまだ2作しか読んでないが、キャラクター造型が薄い――という弱点がある。
気持のいいキャラクターに仕上がっているけど、定型という感じ。
欠点までは至らないけど、小説としての弱点かと思う。
でも、鷹は定型化するほどよく出てくる存在じゃないですからね。かっこよく描けていた。

前回も今回も信長周辺の話なんだね。それで信長本人の小説にいかないのも面白い話だね。
作品の中には、かなり色濃く信長が出てくるけど。でもこのつかず離れずの感じも悪くない。
次に読む予定の「雷神の筒」も、やはり信長配下の人物の話らしい。これは鉄砲の話。
……いやはや。ほんとによく調べる。

戦国秘録 白鷹伝
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直木賞、受賞ならずだったが。
取らせてあげたかったかもなあ、と思う反面、取らなくて良かったのかもしれないと思ったりする。

この間、浅田次郎の「勇気凛凛ルリの色」を読んだんだけど、
直木賞なんか取ると、その後のスケジュールが殺人的らしいのね。

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たしかこの巻だったと思うが……

執筆依頼もそうだし、あっちこっち引っぱりまわされて相当に時間を取られるらしい。
エッセイから察するに、腰軽く動くタイプ(で、多分注目を浴びるのもあまり嫌いではない)の
浅田次郎でさえ「早く次の受賞者にバトンを渡したい」と切に願ったそうだから、
作品から窺える限りにおいては不器用タイプの、山本兼一が取ったりしたら
かなり悲惨なことになりそう。

彼が多作家ならば、「直木賞取って売れるようになるといいね」と思えるだろうが……
こんな風に、じっくり調べてじっくり書くタイプの作家の場合、直木賞は害の方が大きかろう。
結果として「受賞を逃して良かったね」と言いたい気分だ。

まあ、個人的には直木賞の価値を認めてないんですけどね。佐藤賢一を読んでから。
本屋大賞とファンタジーノベル大賞は多少認めている。
前者は「博士が愛した数式」が為に、後者は佐藤亜紀と池上永一が為に。

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