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◇ ニコス・カザンザキス「その男ゾルバ」

語感は大事だ。早い話、このタイトルでは、わたしの食指は動かない。
ぱっと見、どうしても「スパイ・ゾルゲ」を思い出して、ハードボイルド系か?との連想が働く。

まあ、この機会に読みましたけどね。
最初は読む予定はなかったんだけれども、「その男ゾルバ」をモチーフにした
豊川悦司の旅番組がなかなか良い作りだったので。
実際に読んだら、へえ、こんな話?という作品だった。ちなみにハードボイルドではなかった。

ストーリーとしては特にこれといってメリハリがあるわけでもなく。
この作品の魅力はただひたすらゾルバの人間的魅力。
彼の喜怒哀楽。哲学的言行。それを眺めて楽しむ。
作品の中の(カザンザキス本人を思わせる)作家と同じように。
独り芝居の舞台を楽しむように、わたしはこの作品を楽しんだ。

そこでしかわからない、ということはある。
日本の湿潤な気候が形作った気質がある。イギリスの寒冷な気候が育てた性質が、
イタリアの陽光が作り上げた性質がある。
ギリシャは強い日差しと乾いた土地。そこから生まれる人間は、やはりその土地のもの。

ゾルバの魅力は土地と密接に結びついている。
おそらく、クレタの男たちは(あるいはギリシャの男たちは?)
大なり小なり、ゾルバを自分の身のうちに認めるのだろう。

良い作品には普遍性と独自性とがバランスよく含まれている。
この作品はどちらかというと独自性に寄っているだろう。それは瑕疵ではないけれど、
異国の産物であるわたしにとっては少し遠い。
土地の人が読んだら、もっと深い内容を読み取れるのではないかという気がする。
舞台と観客の距離。それを感じながら眺めた作品だった。

作家のニコス・カザンザキスは、一度はノーベル文学賞にノミネートされかかった、という
ギリシャの文学者。彼の著作は数多いらしいのだが、邦訳があるものは少ない。
日本にも来たことがあり、その旅行記も書いているようだ――読んでみたいんだけれども。

その男ゾルバ (東欧の文学)
ニコス・カザンザキス 秋山 健
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個人的な愚痴だが、最近、どうも書くことに対して怠惰……。どうしたんだろう。

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