リストアップした時点では、フィクションだってことを知っていたはずなのに、
ずっとタイトルだけを眺めて暮らすうち、すっかりエッセイだと思いこんでしまっていた。
ページをめくって初めて、やばい、小説だと気付く。1ページ目の字面が何となく鬼門っぽい。
読まずに止めようかと思ったよ。
が、読んで正解。なかなかに面白かった。
「上手い」よりもう一段上の、巧みな作品。そもそもなぜこれをリストアップしたかというと、
池上冬樹という書評家が褒めていたからなのだが、読んで納得。快作です。
インタビューによって構成されるフィクションはたまにあるような気もするのだが、
この作品の場合は、内容もなかなかトリッキー。「広義のミステリにいれたい」とあるのもわかる。
(ただ、ミステリとしては禁じ手の、「結局謎解きは読み手の心の中で」という結末なので、
ミステリを期待して読まれると困るが。)
いや、よく書いたよね。
ただ、最終章の人物として、次男では弱い気がしたな。
贅沢を言えば、ここであっと驚かせて欲しかったところ。
最後に母親を出せば、そこで一捻りも出来たのではないか?それが出来ていたら
ブラボー!と喝采を送っていただろう。今の形でも、穏やかに収束はしているけれどね。
ちなみに、仕掛けの妙を楽しむ作品なので、登場人物はかなり類型的。
逆にこれで下手に登場人物を深く描いたら成り立たない気がする。
昭和58年の作品。やはり時代を感じる。わたしは時代ものは好きだが、
現代ものとして書かれた作品が時代がかってしまうのはあまり好きではない。
だが、こういう風に風俗がふんだんに出てくる作品は、やはり古びてしまう。
昭和初期くらいまで遡れば、当時の現代小説もそれなりの感覚で読めるのだが、
わたしにとっては、この作品あたりの年代は一番どっちつかずかもしれない。
これが初有吉佐和子。面白かったから、他のも読んでいいはずなんだけど、
どうもこの辺りの作家には苦手意識があるな。ベタベタなのじゃないかという偏見から抜けられない。
自分の好みの方向としては、軽やかなのや、繊細なのや、硬質なのが好きである気がする。
有吉佐和子近辺だと、そういう感じじゃないもんね。
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