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◇ 島本理生「ナラタージュ」

とてもとてもとても上手いと思う。
描写が丹念で繊細。血肉を持ったという方向のリアリティではないけれど、
こういう人は現実にもいると思える登場人物。
話の流れも1、2個所を除いてはみな自然。一つ一つのエピソードに意味を感じられる。
人と人の存在。それぞれの距離。心が触れて、そして離れていくこと。
時々刻々の関係性が丁寧に描かれている。故にどの登場人物も自分の思い出の中の人々に重なる。

池上冬樹か北上次郎がこの本を、
「若いのに本格的な作風を持つ」「日本文学の系譜に連なる」と高く評価していたので
読んだのだが、たしかにこう言われても全然おかしくない。
これを20歳そこそこで書けるのは才能だ。
単に1箇所突出した面白みがあるというような良さではない。完成度が図抜けている。
(このレベルの作品を、わたしはどのくらい読み逃して「面白い本がない」と言っているのか?)

時々、本から目を離さなければならなかった。
読むのが嫌になるほど下手くそでインターバルを置かずにはいられなかった数々の小説と違い、
読み進むうちについ物思いに落ち込み、文字を追う視線が止まる。
ここまで入りこんだのは久々だ。初北村薫作品「冬のオペラ」を読んだ時を思い出した。
文章の繊細さはよく似ている。繊細さという意味では小川洋子「博士の愛した数式」にも近い。

でも。

こういう辛い話を、わたしは読みたくはなかった。

ナラタージュ
ナラタージュ

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島本 理生
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島本理生はこの1冊にしておく。

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