年末年始は見たい番組が多く、録りためた録画を消化するのに四苦八苦した。
「光のかたち~菊川怜・近代建築の父ル・コルビュジエ、真実の旅~」はその中の一本。
菊川怜か……という部分はおいて、内容は良かったのではないかと思う。
コルビュジェ作品として一般的に出てくるのは、「ロンシャンの教会」「休暇小屋」「小さな家」
「サヴォア邸」などだが、この番組では、ほんの駆け出しの頃(まだ駆け出してもいない頃か?)に
共同で作った初期作品群が見られた。後年のサヴォア邸が想像できない可愛い家。おとぎ話のよう。
実際住むには非常にツラかった家もあるそうだが、若いうちには若気の至りも多少は可。
微笑ましかった。
わたしはコルビュジェが特に好きでもないのだが、
この番組を見て「そうそう!」と言いたくなった一点がある。
モデュロール。
定義はWikiで確認して頂くことにして、簡単に言えば、「人体に合わせた建築の基準寸法」である。
ダ・ヴィンチの人体図によく似た図を見た時、やっぱりこうでないと、と思った。
やっぱり建築は人間のための物体なんですよ。
建築が人間によって使われるものだということを忘れている建築家が一体どれだけいるのかと思う。
というのも、こないだ読んだ本にこんなのがありましてね。
TOTO出版 (2000/12)
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これは、多数の建築家による対談・インタビュー・講演によって構成された本で、少し専門的。
素人であるわたしには正直難しかった。
なので、あまり内容をしっかりつかんだとも言えないのだが、このなかに書いてあることで
ものすごくがっかりした部分がある。
ある建築家(誰だったかは忘れた。便宜上、桃太郎とする)が学生だった時。
桃太郎の作った住宅の台所部分の設計を見て、教官は質問した。
「君、鍋の蓋はどっちの手で取る?」
それは鍋の蓋をとってもそれを置く場所がないことに対する指摘だったのだが、
その時桃太郎は教官にこう言って食ってかかった。
「そんなことより建築の本質はどうなんですか」
すでにうろ覚えになっているので、間違っていたら勘弁だが、だいたいこういう内容。
このエピソードが、桃太郎の建築に対する考え方の蒙を啓いたというなら美談なのだが、
この経験を経ても、彼はどうやら鍋の蓋を置く場所を考えるという方向には行かなかったらしい。
ていうか、まさに建築の本質が「鍋の蓋をどこに置くか」に集約されると思うんだけどね。
こういう人が建築科の学生で、それが間違うと建築家先生になっちゃうということが、
ものすごく嘆かわしい。
この本での良心は、吉村順三の弟子である中村好文。殺伐としたこの本で
(だってしょっぱなが、原広司含む鼎談なんですよ!彼らは相変わらずひたすら抽象を
追い求めているわけだし。理念で建築を建てるなっちゅーねん!!)
まるでオアシスのような存在でした。この人はちゃんと住む人のために家を作ってくれる建築家。
……だと思う。実際は中村好文が建てた家、よく知らないが。
テレビでドキュメンタリーを見たことがあるけど(その限りにおいては住む人のために
工夫した家だったけど)、実際住んでみてどうかということですからね、建築の価値は。
わたしは家を作ってもらった経験はないけど、住み始めた後、日々の暮らしの中で、
「あ、こんなことまで考えていてくれたんだ」と思えるような家が夢だな。
そんな風に思える家を作った建築家は、一所懸命わたしのことを知ろうとしてくれたってことでしょ。
想像力を働かせて、考えてくれたってことじゃないですか。
それは愛だと思います。住む人に対する愛がなければそんな家は建てられない。
コルビュジェのモデュロールは、建築の真ん中に人間がいるのだ!ということを
あらわしているような気がするから好き。
実際、コルビュジェは住む人のために家を作ってくれた建築家のようだ。
集合住宅もずいぶん建てているようだし、住人のインタビューでは住みやすいと言われている。
もっとも、インタビューを頼まれて住みにくいと言う人はいないだろうが。
建築はオブジェじゃなくて道具なの!機能と使用感が大事なの!
理念を盛り込みたいなら、機能と使用感を高いレベルで組み上げてからにして欲しい。
自分で金を出してオブジェとしての建築を作るのなら、わたしは全く止めないけれど、
わたしたちの税金を使って自己満足的に好き勝手やられるのは、我慢がならん。
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コルビュジェに話を戻せば、「小さな家」は色々考えられているらしい。
両親のための家で、リポンウィンドウは健在。外の海(湖だったかな?)がよく見える。
ピロティはないけどね。わたしはピロティはあまり賛同したくない気がするので、ない方が好感触。
窓の位置とか、洗面台とか、工夫色々。猫の見晴らし台まであるんだぜっ。
あそこでほんとに猫が海を見ていたのか?と疑問はあるけど、それを作る根性がカワイイ。
この家の詳しいことは中村好文の……どっちだっけかな、「住宅巡礼」か「意中の建築」の
どちらかに書いてある。どちらかといっても、それぞれ上下と正続があるので、4冊のうちのどれか。
読んで、この工夫がほんとうに使いやすさに結びついているのか?という疑問は抱くのだが、
中村好文が褒めているのだったら、涙を呑んで信じよう。
(なぜ涙を呑むのかというと、やはり自分で体験しないとほんとの所はわからないと思うから)
ま、自分の目で見ることはないだろうな……。まかり間違ったらロンシャンの教会くらいは
行くことがあるかもしれないけど。
関係ないが、わたしが目下一番訪ねたい建造物、それはピラミッドだ。
エジプトにはまだ行ったことがない。
エジプトは、「行かずに死ねるか!」な場所。いつかは行かずばなるまい。
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