2年くらい前から、日本ファンタジーノベル大賞と優秀賞を新しいものから順次遡って読んでいる。
これは1998年の大賞作。帯の惹句は「バロック・ミステリー」。
ただし正直なところ、ミステリーを期待してはいけない。いわゆるミステリーでは全くないから。
このグループにおいては、今まで読んだなかで一番快適に読めた作品かも。
物語にかなり没頭出来た。話の骨と肉、知と情、奇と穏のバランスがわたし好み。
雰囲気的には19世紀に持って行った方がふさわしいくらいの話だけれど、
それをしないことで、キッチュさが少ないのがいい。
(これで舞台を19世紀にすると、高野史緒になってしまう。)
前半の、謎を積み上げていく過程の方が面白かったかな。
後半はありがちではある……。ストーリーがどこかで見たような話になってしまうのが惜しい。
最後はちょっと(というかかなり)トンデモになるしな。うーん、残念だ。
流れとして、ああいう風になってしまうのは仕方ないかもしれないけど。
ま、筋はトンデモでも、読んでいて不快さはなかった。書きぶりが淡々と落ち着いているし、
下手にオーバーアクションにしていないところに好感が持てる。バランスの魅力。
キャラクターも、typicalといえばtypicalではあるが、ちょっとした書き方で魅力が増している。
特に脇。警部とかクロダとかダールスとか。
わたしは蘊蓄系小説は好きな方。この作品は音楽と機械?医学?について書きこんでいた。
音楽はどちらかといえばコッチ側の話題だが、医学は守備範囲ではないので、少々胡散臭く感じた。
いやいや、現在の医学ではあの状態にはならんからなあ……
音楽家としてのテオをもう少し描いても良かったかもしれない。ただオルガンとバイオリンを
どちらも書き込んではうるさくなるかな。あれくらいで良かったのかも。
ただ、最後の最後がかなり残念。歌うのはヨーゼフだけにして欲しかった。
あの部分、ヨーゼフの段階では泣けたんだよ、わたしは。
作者はオペラのアリアをイメージしたのか?ここは下手すると失笑もんだった。
他にもちょっと読んでみたいと思った作家だったので、既刊が数冊出ているのは嬉しい。
……が、実際に読むのは5、6年後か。何しろリストアップ本が既に1000冊超……
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