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◇ 宮本輝「青が散る」

宮本輝は、けっこう期待感を持って読んだのだが……物足りなかったな。

「わたしたちが好きだったこと」「彗星物語」「青が散る」と3作読んだ。
読ませるの上手いんだけど、テクニックで読ませている感じ。こういう風に話を持って行けば
OKと知っているような。プロだから当然誰にでもその部分はあるだろうが、
わたしの深いところには訴えかけてこない。

わたしは小説読みではないので、こういうごく一般的な小説に対しては、
そもそも少々冷淡なスタンス。しかもこの人の話は、等身大の話っぽくしているわりに
「いや、普通はしませんから」という部分が見え隠れして困る。

「わたしたちが好きだったこと」では、3人が1人の為に何十万単位の金を出すのが嘘っぽく感じたし、
金を作る難しさをほとんど描いてないのが気になった。
金で人間関係はギスギスするものだよ。借金だらけのあの状態で、
そうそう居心地のいいままの人間関係が維持できるとは思えない。
「彗星物語」では、最後に結婚話を即決で決めちゃうのが……。どう考えたって、即決出来る
シチュエーションではないのに。
今作は、大学4年間で色々ありすぎなのが疑問。10年くらいのスパンで起こった話としてなら
それなりに納得出来そうなのだが、大学4年間で起こる事じゃないと思う。
色々ありすぎなのに、恋愛面はまったく動かないというのも、あの年代としてはどうか。
しかも主人公だけならそういう性質として納得出来ても、みんなが思いを胸に秘め行動に移さない。
不自然な気がする。慌て者の一人や二人いるはずだが……
金銭感覚も少々違和感があった。だって自分なら、ほとんど知らない人に借金はしないもの。
著者が大学時代を送った年代と、わたしが大学生だった年代ではそれなりに隔たりがあるから、
そういう点の違和感もあるかもしれないけれど。

心情とかは丁寧に書いていて、良い点。きれいではある話だよね。
テニスのことも詳しく書いていて、テニスに興味があれば面白そうだ。
わたしは興味がないので、ちょっと退屈。

完結感がないのが落ち着かないのかもしれない。時間的な完結はするけれど、
話そのものが一つの事件ではなく出来事の連続だから、燎平の人生は今後も続くし、
夏子や祐子(他の友達も含めて)ともどうなるかって、実はこれ以後も全然わからないでしょ。
一応終わりの段階では、夏子・祐子への思いや態度は燎平の中では決まっているけど、
この4年間のグダグダ具合(と最後のバタバタ具合)から勘案するに、すぐひっくり返ってしまいそう。
本1冊分彼らの人生を読んで来ても、「でも半年後くらいに縒りが戻っていても全然おかしくない」
と感じるから、どうも「……だから?」という感想になってしまうんだなあ。

わたしは長い間、小説はミステリと歴史物とファンタジーしか読まなかった。
今書いていて気づいたけど、これは完結するのが良かったからだろうか。
これらはみな、話が事件を枠として構成されている。ミステリは事件だし、歴史物は一代記か
歴史上の事件のどちらか。ファンタジーも、一般的には結末があるでしょ。

が、誰と誰がどーしたこーした、という心情メインの一般的小説の場合、終わった!という解放感が
味わえない。ぼやっと始まってぼやっと終わる。だから読みたくないのかな。うーん、あるかも。
……わりあい乱暴な結論が出たが、
自分が小説が読めないことを完結性で捉えたことがなかったので、ちょっと新鮮。

宮本輝は短編は書くのかね?
この3作を読んだ限りでは、この人は長編を短編的にシーンの連続として書いている気がするから、
短編はむしろ苦手かもしれないな。いや、短いシーンをきれいに書くのは大変に上手いだろうが、
少ない要素で起承転結きちっとまとめる、とかは苦手な人である気がする。どんなものだろう。

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