内容について特に言うことはない。
いつもと同様というか。これは全集のうちの1冊で、特に旅関係のエッセイを集めたものなんだけど、
……とにかくまあ、こんなに旅が出来てうらやましいやねえ。
「今年は旅に明け暮れた」とか「何月はどこで何月はどこ、何月はどこへ行った」などと
書いてあると、こんちくしょう、と思わず呟く。
まあ、すでに辻邦生は愛ですから。なんだって赦せてしまうけどね。
この本について書きたいことはその装丁。
これなー、実にきれいだ。辻邦生らしい美しい装丁だ。
もっとも、この全集が出た時、彼はすでにこの世を去っていて、別に彼のセンスが反映した
装丁ではないんだけれどもね。やはり遺徳でしょう。あるいは奥さんの意見なども入っているのか。
表紙と裏表紙の部分はきれいな空色。この青は、彼が愛した旅の空の色だ。
背表紙がかすかにクリームがかった白。背表紙の角ばり具合が端正。表紙には金文字で
辻邦生全集と書いてある。
ああ、もうこれは実に辻邦生だ。うーん、いい。(これはいわゆる、あばたもえくぼ状態なのか?)
こんな空色の本が自分の本棚に並んでいたら、すごく嬉しいと思う。
1冊7350円の20巻。
……お金持ちになったら買おう。
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しかしいつも言うことだが、基本的に全集は読まない方がいいね。
全集は、読み飽きるほど読んで、なおかつ読み飽きないほど好きな作家のもの、という条件下でしか
存在意義がない。つまり全集が作られた本来の目的そのもの、愛蔵し、愛読するための物だ。
思いいれなく読んでみる、という目的には合わない。
が、今回読んだ小林秀雄の全集の1冊は、珍しく全集で読んだメリットがあった。
本来の目当ては「近代絵画」。が、図書館で検索すると、独立した1冊になっている本は発行が相当昔で。
別に新しさにこだわりはないが、さすがに1958年発行となるとちょっと……
しょーがないので全集で。全集のうち、後半の半分弱くらいかな、「近代絵画」部分は。
で、前半はいろいろなところから集めて来た随筆やら解説やらなわけだが。
これを読んで思った。――小林秀雄、どれほど小面倒くさいことを言う人かと覚悟していたら、
けっこう適当なことも書いてるやないの。
ガチガチ肩に力を入れて、隙なく書きまくるタイプだと思っていたよ。
そしたら、前半の意外な内容の薄さに笑った。そしてちょっと安心した。
そりゃまあ、常に100%の文章を書ける人っているはずないもんね。
おかげで「近代絵画」も、必要以上に構えることなく読むことが出来た。
もっとも、これはそれなりに力を入れた文章であって、書いてあることは総じて前半より密。
テーマがはっきりしているから、ごった煮になることなく、軸がぶれない。
とは言っても、あまり頷きつつは読めなかったな。なるほど、と思う部分も時々あったが、
だいたいのところは、ふーん、という状態。共感までには至らなかった。理の人ですね。
中原中也や白洲正子と縁のある人でもあるし、もう少し何かを読んでみるつもりではあるけれど。
あ、でも驚いたんですが、この人の文章はあまりにも読点が多くありませんか。
わたしはあまり読点の多い文章は好きではないので、ナンダコレハ、と思ったのだが。
悪文とは言わないけど、名文の類ではないよなあ。
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これでも画像付きです……。
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